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ひんやりとした暗がりの洞窟の中でユーリはぼんやりと目を覚ました。
何分まだ朝も早く、九月(このつき)初旬とは言えそろそろ本格的に秋を迎える時期である。
昼間はまだ暖かいが朝と夜は少しずつ肌寒くなってきていた。
薄着のまま眠っていたせいか、体が少しばかり冷えていた。
(……寒いな……)
そう感じて物憂いに体を起こそうとした時だった。
ふいに擦り寄ってきた誰かのぬくもりを感じてユーリは思わずぎょっとした。
「……っ、シーナ!?」
それは昨晩、自らの心の揺らぎから冷たく突き放してしまった黒い髪の少年だった。
ニナと共に傍らで丸くなって穏やかな寝息をたてて眠る少年の目元がひそかに腫れているような気もする。
(泣いて、いたのか)
そっとその黒髪に触れて、未だ目尻に浮かべたままの涙を拭ってやる。
「……ん〜 ゆぅり……?」
「………」
う〜んと唸りながら、覚めきらない目をこすってシーナは起き上がった。
寝起きでボサボサになった黒髪をふるふると振り、ユーリに向き直る。
「あ。おはよー」
ニコニコと屈託のない笑顔を向けてシーナはそう言った。
「……どうして……」
そんな風に笑えるのか――そう言い足そうとして、ユーリはつい言葉を飲み込んでしまった。
「……あのさ。俺、もっと強くなるから――‥
ユーリに負担をかけないように……心配かけないようにさ。
だからさ、もうそんなカオすんなよ」
「………」
「何でも一人でしょい込もうとすんなよ。ユーリ、今にも壊れそうなカオしてんじゃん。
しんどいなら……そう、言えばいいだろっ」
そう言ってビシッとユーリの鼻先に指を突き付けて、シーナは少しだけ生意気な態度で踏ん反り返っていた。
むぅっとした表情をして、そらすことなくユーリの碧い瞳を捕らえた少年の紫暗の瞳には
素直にそうしたいと言う確固たる意志のようなものも感じられた。
「――‥ぷっ……くすくす……あはははっ!
……全くお前は本当に……ふふっ、適わないなぁ もう」
(一人で感傷に浸っていた自分が情けないと言うか、変に気にしていた私が馬鹿みたいじゃないか……)
そんなことを内心で思いながら久しぶりに大きな声をたてて笑ってしまった自分自身に、ユーリは少しだけ驚いた。
「〜〜っ!
何でそこで笑うんだよ!? これでも、俺は真剣なんだぞっ!!」
突然笑い出したユーリに対し、シーナは耳まで真っ赤に染めて抗議していた。
「ふふ。ごめんね? ありがとう……お前がいてくれて、よかった」
そうしてしばらくの間、早朝のひんやりとした風にさらされたざわめく木々の音に混ざって
二人の少年の笑い声と怒鳴り声が響き渡っていたのだった。
いつまでも、何処までも
それはひと時の安らぎと共に、夢幻の如くはかなく瞬く蛍火のように――。
ー4/4ー
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