月の回廊 | ナノ

哀恋歌〜elegy〜5

***


それからどれくらいの時間が経った頃だろうか。


買い出しからようやく戻ってきた黒髪の少年は、焚火の前に力無く座り込んでいるユリシスの姿を見つけてギョッとした。
頭の上に定位置だと言わんばかりに乗っていた白い羽を持つフェレットほどの大きさの小動物を腕に抱きなおしそっとユリシスに近付いて行く。




「……ユーリ……?」

名前を呼んでみるが、反応はなかった。
訝しげな表情をして少年は腕に抱き抱えている白い羽を持つ小動物――ニナと、目を合わせてからユリシスの肩に手をかけた。



「………」

ぼうっとしながらもようやく少年の気配を感じ取ったユリシスは、ゆっくりとこちらを見上げる。
少年の紫暗の瞳を捕らえ、その瞬間に光が少しだけ戻ったかのように――腕を伸ばしてその華奢な体を抱き寄せた。



「え!? ちょっ、ユーリ?」

唐突なユリシスの行動に驚いて目を見張る。


「……シーナ……」


「………」


少年の名前を呼ぶユリシスの小さな声が微かに震えていた。
ちらりと辺りを見渡し、出掛ける前までいたはずのアスタロテの姿が何処にも見当たらない事と、少しだけ力を込めて自分を抱きしめるユリシスの温もりを感じながら、自分がいない間に何かがあったのだとシーナは悟った。




「……アスは? なぁ、どうしたんだよ」

そう尋ねてみるがユリシスからの返答はない。
ただただ何も言わず、シーナの華奢な体を抱きしめるばかりだった。


ー5/5ー
prev next

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -