月の雫 | ナノ

聖魔の森4



一方、その頃。


城下まで情報収集に出掛けていたシーナが戻ってきたとき何故か宮廷内が騒然としていた。
同じ頃神殿に行っていたセオールも戻ってはいたが、おいそれとバタバタとしている女官(レイラ)たちの様子とすでに戻っているはずのユリシスの魔力反応が宮廷内のどこにもないことに気づき、怪訝な表情を浮かべて近くを通り掛かった女官に話しかける。


「おい、殿下が戻られているはずだが……」


「あっ、セオール様!? あの、それが……」

セオールの質問に、女官は歯切れの悪い様子で瞳を泳がせていた。



そこへ、



「殿下は先程、何やら慌てて飛び出して行かれたようだよ? その後をルーカスくんが追って行ったのを見掛けたけど……」

そう言って静かに現れたのは、金色の癖のある髪を後ろで一つに束ね、背中に翻したマントと同色の淡い水色の瞳をした小柄な騎士風の男だった。




「……」

男の姿を見るなり、セオールはあからさまに嫌そうな表情をする。





「殿下が戻られたと聞いて挨拶をと思っていたんだけどねぇ」

男はため息まじりにわざとらしくそう言って苦笑した。



「……何かあったのか?」

「さぁ? 私も詳しいことは知らないよ。だけど……少し嫌な予感がするかな」

少しだけ真面目な表情をして男はそう告げると、くすりと不敵に微笑んでその場から退散して行く。








「ユーリが出て行ったって、どーゆうことだ!? つーかさっきのアレ、誰だよ?」

騒然とする中、セオールの側にやってきたシーナが男が歩き去って行った方向を見ながらそんな質問を投げ掛ける。




「……俺の親父だ。ロズウェル=アークエイル――あんなのでも、一応シャーロムの近衛騎士団長をしている」


「そうなのか!?」

若いんだなと付け足して、シーナは苦笑いを浮かべていた。







「そんなことより殿下のことだ。アレの嫌な予感は不本意ながらよく当たるんだよ」

そう言って焦りを含んだ面持ちでセオールは足早に歩いて行く。
その後を慌ててシーナは追い二人して王女の寝室へと向かうのだが……




直後、もぬけの殻となっている寝室を見渡して、そのどこにもあゆの姿が見当たらないことに愕然となるのであった。



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