王子の帰還5
訓練施設を後にしたルーカスとあゆは、ループ状になっている渡り廊下を本廷に向かい並んで歩いていた。
「ねぇ ルーくん。お父さんと仲が悪いの?」
先程から黙り込んでバツの悪そうに渋い表情をしてとなりを歩く琥珀色の瞳の魔法剣士を一瞥し、あゆはおもむろに口を開いた。
「……あぁ、まぁ……ちょっとね。悪かったなあゆ。嫌なとこ見せちゃったなぁ……」
苦笑してルーカスは答える。あゆは怪訝な面持ちでそんな彼の横顔を見上げていた。
(ルーくん、何だか悲しそう。意外な一面を見ちゃったみたい……ちょっとびっくりかも)
「それにしても、セオくんのお父さんて面白い人だね。見かけはセオくんとよく似てるのに中身があのノリって……あたし、ルーくんとセオくんのいつものノリツッコミを見てるみたいで笑っちゃったよ」
あゆは何気に話をそらそうと、そんなことを言ってみせる。
「カンベンしてよ、お嬢ちゃん。アークエイル騎士団長と俺が似てるって言いたいの?」
「そっくりだよ。ルーくんとセオくんの逆バージョンだもん! 漫才だよ、ハッキリ言って」
「……漫才とか、ノリツッコミとか。お嬢ちゃん時々妙な言葉を口にするねぇ……」
微苦笑を浮かべ、力無くうなだれてルーカスは少女の話を聞いていた。
「ついでに腐女子的な目線で見ると、パパ'Sも含めて君達ってBL要素満載だよ。見てて面白いし、飽きないよね」
「……それは何語だい? おにーさんには理解できない言葉だよ、お嬢ちゃん……」
(……ホントにこの子は……不思議なお嬢ちゃんだな。ちょっとだけヘコんでた俺がバカみたいに思えてきたよ……)
やれやれと軽く肩を竦め、出かけたため息を呑み込んだ。
先程あゆを探して一番会いたくない人物にバッタリと会ってしまい、かなりヘコんで沈みかけていたルーカスだったが、意味不明な少女の言葉の羅列を耳にしながらいつの間にかそんなことはどうでも良くなっている自分自身に気付く。
二人はしばらくそんな半ば噛み合っていないような会話を交わしながら、長い渡り廊下をのんびりと歩いていた。
中庭を吹き抜けていく生暖かい初夏の陽気を含んだ風が、ざわざわと新緑の木々を凪いでいく。
微かに吹き込んできた風があゆの栗色の髪と、ルーカスの深い緑色のマントを緩やかに揺らしていた。