王子の帰還3
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「やばい。迷ったかも……」
だだっ広い城内を見渡しながら、栗色の髪のセーラー服姿の少女はぼそりと呟いた。
少女の名前は紗々霧あゆ。彼女は半月程前にひょんなことからシャーロムに来てしまった、ごく普通の女の子。
いつものように学校から帰っていた時に、突然召喚?されてしまったのであった。
「……ここ、どこだろう? 何でこのお城はこんなにも無駄に広いのよ」
そんな文句を口にしながらあゆはとぼとぼと誰もいない廊下を一人歩いていた。
「〜〜っ! またかっ、あの脱走常習犯め!!」
がらんとした王女の寝室に、不機嫌そうな少年の怒声が響き渡る。
ちょっと目を離した隙の出来事であった。この部屋で大人しく待っていると言った少女の言葉をうかつにも信じてしまった彼は、自らの馬鹿さ加減に頭を抱えていた。
「あらま〜、またやられちゃったねぇセオール。なかなかたいしたお姫様だわ……」
そう言いながら、騎士風の淡い紫色の髪と琥珀色の瞳を持つ青年は苦笑していた。
セオールと呼ばれた魔道士のローブを身に纏った風色の髪の少年は、横に立つ青年のそんな軽薄そうな顔を睨みあげてくるりと踵を返し部屋を出て行こうとする。
「探しに行くのか? 何なら俺も手伝うが……」
「……当たり前だ。行くぞ、ネオ! あのバカモノめ、覚えていろっ!!」
セオールは、そんな悪役の逃げ台詞の定番のような言葉を口にして、ネオと呼んだ琥珀色の瞳の青年の襟首をつかんで歩き出した。
「……えっと、確かこっちから来たはずだから……このまま真っ直ぐ行けば、多分どっかに出られるよね??」
キョロキョロと周りを見渡しながらあゆは歩き続けていた。出口を探しエントランスホールを抜け、ループ状になっている廊下を下って行く。
「?」
(あれっ、何か聞こえる。この先に誰かいるのかな?)
微かに耳をついた人の声と金属がこすれるような音に、ふいに彼女は歩く足を止めた。
よくよく見ると眼前に大きな入口のような扉があったので、あゆは再び歩き始めその重そうな扉の前まで来ると、また足を止めた。
「……でかっ。この向こうに何があるんだろう? 音と声、この先から聞こえるみたい」
一度天井をつく勢いの大きな扉を見上げてあゆはおもむろにその鉄扉を押してみた。
ギイィ…
見かけ通りの重く鈍い音をたてて扉は開いた。そして眼前に広がる光景に驚いて目を見張る。
とても広い訓練施設――わりと設備の整った、闘技場のようなそんな場所。あゆは息を呑んでゆっくりと中を見渡した。