流れる砂の国3



***


わぁわぁと騒ぎ立てる女官(レイラ)以下宮廷に仕える立場であった者たちが逃げ惑う中、男は一人流れる人々を掻き分けながらある場所を目指し走っていた。

腰に細身の剣を携え、背中に翻すマントは臙脂色。微かに熱を帯びた空気にたなびく髪はオレンジに近い茶色をしており、暗がりではわかりにくいが強い意志を宿した瞳は赤茶色をしていた。

(……急がなければ……! 城内に敵が押し入る前に、姫を安全な場所へお連れしなくては……)

男は内心でそう呟いてキッと眼前を見据えた。
例えばもし母国に何かあった時は、何よりも姫の安全を優先するようにと言われていた男は、自らの守るべきラザックの唯一の姫君――シャーロットのいる寝室を目指し、足早に廊下を駆けていく。











「スタイナー!」

ふいに、火の粉が舞う渡り廊下の先から男の名を呼ぶ声がした。

「!?」

スタイナーは咄嗟に立ち止まり瞳を細めて先の扉を一瞥すると、そこにはシルクのドレスローブをまとった薄桃色の髪の少女が女官たちに守られながら立っていた。


「姫! ご無事で!?」

「ええ、私は大丈夫。それよりも……お父様とエイルは何処にいるの?」

たたっと此方に走りより、シャーロットはスタイナーのダークグレーの軍服を握りしめた。

「隊長は現場で指揮をとっているはずです。陛下は恐らくまだ玉座に……
ともかく、姫は私が安全な場所にお連れします。お急ぎください」

「……でも、エイルとお父様を放っては行けないわ! 私も皆と共に戦います」

「それはなりません。これはお二人の意思です。私の役目は貴女をお守りすること……このままでは城が落ちるのも時間の問題です。ここで貴女を失うわけにはいかないんですよ」

ジッと此方を真っ直ぐに見上げてくるシャーロットの茶色の瞳を見つめ返し、スタイナーはふるふると首を横にふった。

「そんな……」

頑として少女の願いを聞き届けようとしない男の言葉に、シャーロットは愕然となった。


城内の空気が更に熱を帯び、舞い上がる火の粉は衰えを知らない。そうこうしているうちに、騒ぎ立てる兵士や女官たちの声が一層激しくなっていた。

城が落ちるのも時間の問題。そう言ったスタイナーの言葉がシャーロットの心に重くのしかかる。



(……どうして? 何故こんなことになってしまったの――‥!?)


そんな少女の疑問に対する答えは得られず、彼女はスタイナーと数人の女官たちに促されてその場を後にするしかなかった。



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