繋がれた真夜中










鍵付き冷蔵庫を欲しがった理由は、他にも有る。
寧ろ、本当の理由はそちらに有ったのかもしれない。



夜中、腹を空かせた怪物が忍んでやって来る先、凄腕のコックも唸る設備の調ったキッチン。
今あるのは、怪物とぷかりと紫煙を吐き出すコックの姿だけ。


頭痛の種が、芽を出した。
鍵付きの冷蔵庫、という解決策は、本当の解決策ではなかったのだ。
現に今、怪物は目的の食糧にありついている。
それもこれも全て、最高の腕を持つと自負するコックが原因であり、他の誰が悪い訳でもない。
責めるべきは己であり、最も愚かなのも又、己であったのだから。




仕方無ェじゃねェか。いちいちクソ可愛過ぎるコイツが悪い。
目前で、一言も発さず大量のホットサンドを平らげて行く怪物、ルフィを見ながら、サンジは独りごちた。
幸か不幸か、食べる事に夢中であるルフィの耳には届いていない。
ぷかり。
紫煙を吐き出し、お世辞にも綺麗とは云えない食事風景を横目で眺めながら、自然口元が笑みの形を刻む。
食べっぷりもさる事ながら、満足そうな表情を見ていると、こちらまで幸せな気分になる。

何時もより手間の掛かる下ごしらえを済ませ、さあ風呂に入ろうと扉を開いた処で、食糧を狙ったルフィと鉢合わせ、勢いで踵落としを決めてしまった。
打撃の利かない身に、しかしコックの愛有る蹴りはダメージを与えた。ぷくりと盛り上がったたんこぶが、痛々しい。
食糧を狙った不届き者に謝罪する気は毛頭無いが、少し可哀想な気もする。
空腹と眠気だけは、我慢出来るものではない。
かと云って、無限の食欲を常に満たしてやる事など到底出来無いが。


「あーっんまかった!サンジ、ごちそーさん!」

「おーおー、お粗末さん。オラ、とっとと寝ろよ」

「おうっでもなぁ、なんでメシ食わしてくれたんだ?」

「あ?」

「冷蔵庫に鍵かけてただろ。もうなんも食えねェかと思ってた」

「食えねェと思ってたんなら、忍び込んで来るな」

「ししっ」

「あー…ほら、アレだ。気紛れだ、気紛れ。明日っからは無いと思え」

「ふーん。んじゃあ、次は何時気紛れになるんだ?」

「アホ。気紛れなんだから分かんねェよ。下らねェ事云ってないで、早く寝ろ」


見上げて来るルフィを椅子から追い立て、食器を洗いにかかる。
「おやすみー」と離れて行く声におうと応え、気配が消えた瞬間、はぁ、と溜め息を吐いた。
二人だけの空間が、甘く苦しい。
咽喉元まで迫り上がって来た塊を無理矢理に飲み込んで、煙草を銜える。燻らせた紫煙は、ゆっくりと音も立てず天井を目指し上って行く。
昇華されず胸に留まるこの思いは、何時だって焦がれる相手を求めた。
何時だって、自分の視界にルフィの姿があって欲しい。だから、二人だけの時間が欲しくて堪らなかった。
自分以外目に入らない、ルフィ以外目に入らない、限り有る時間を。
鍵の付いた冷蔵庫は、戒めでもあり、僅かな期待でもあったのだ。
鍵が付いていると分かっていて、ルフィは忍び込んで来るか。
…人の気配―――サンジの姿があると分かっていて、それでも忍び込んで来るか。


結果は、サンジの期待通りであった。
しかしそこに、なんらかの意味が有ったのかどうか、見極めきれずにいる。
分かりやすくて、理解しづらい男は、答えを簡単に寄越してはくれない。


(まぁ良いさ。時間はたっぷり有る)


焦り出しそうになる己を引き摺り、戒めていた心を少しだけ解放してやる。
自由に想ったって、構わない筈だ。
けれど、冷蔵庫の鍵だけはきっちりしっかりと。

さて。明日もあいつは来るだろうか。

甘く苦しい拷問は、幸せ以外の何ものでもないのだと、サンジは煙草のフィルターごと噛み締めていた。















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え?コレが世に云う乙男ですか。※ツバキは乙男というものを良く分かっていません
サンジのモノローグだと吐いた(砂とか)だろう事は確実。
何より、タイトルが色々アレです。
いっそ襲ってくれ!と思いましたが、サンジがへたれました。寧ろ僕がへたれました。
次はなんやかんやしたいです(あやふや)。

閲覧して下さり、誠に有難うございました!







10/09/28

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