※拍手お礼文
 10/11/04〜11/01/30掲載
※年齢操作有り
















『ルフィ』、と。
名前を呼ばれた気がした。
けれども、振り返った先には誰も居ない。



エース?
……父ちゃん?母ちゃん?



ちいさく呼んでも、応(いら)えは無い。
そこには、しろい闇が広がっているだけだ。
疑い様も無い不安が、ひたひたとにじり寄って来る。
堪え切れなくなったルフィは、意を決して足を踏み出した。
踏み出してしまったら、不安に背を押される様に駆け足へと変わるのは必定。
はあはあと息を乱しながら、ひたすら前へと進む。


どれ程走ったか分からない。
続いていたしろい闇が、変わる事なく続いている。
続いているのに、足が前へと進まない。
どれだけ動かしても、その場から一歩も進めなくなってしまった。
只しろが広がっているだけで、壁なんてものは見えないのに。
見えないのに、進めない。
目前を殴ってみても、なんの感触も無く手が空を切るだけ。




おおーいっだれかいんのか!?
エースっ!父ちゃん!母ちゃーん!!




叫んだ声は辺りに響いて、ルフィの耳へと戻って来る。
けれども。
幾度叫んだとて、とうとう、応(いら)えが返って来る事は無かった。











出ずる日蕾む花













水面を押し上げる様に、意識が浮上する。
なんの余韻も残さずぱちりと瞼を開くと、毛むくじゃらの生き物が目に映った。


「クマ?」

掠れた声で口にすると、目前の毛むくじゃらは大きく息を吸い込んだ。
次にわたわたと腕を大きく動かし、その場で足踏みをする。と、そのままの勢いで扉を開き、何処かへ走り去ってしまった。バタバタと、忙しない足音が遠ざかる。
クマって服きるのか。はじめて見たぞあんなクマ。
などといささか的外れな感想を抱きつつ、ルフィはぐるりと周囲を見回した。
どうやらここは、室内らしい。
今ルフィが寝かされている天蓋付きベッドの他に、ロココ調で纏められた品の良いソファや机などがバランス良く配されている。
けれど、そこに置かれているだけという印象が強く、全くと云って良い程生活感が無い。
しろい寝巻きの様なものを着せられているし、誰か人は居るのだろうが、それにしても人の気配が無いというのは不思議だ。
首を傾げつつ、フランス窓に目を遣ったルフィは驚いた。
空が、とんでもない事になっている。


「あー!!まっくらじゃねェか!…っ」

驚いた勢いで身を起こし掛けたが、意思に反して、ベッドへ沈み込んだまま動けない。身体に力が入らないのだ。
目を白黒させながら自分の身体を確認するが、特に変わった処は無く、怪我をしている様子も無い。
せめて腕だけでもと力を入れてみたが、一向に持ち上がらず。その内、段々と意地になって来る。
なんとしても起き上がってやろうと、渾身の力で少しずつ寝返りを打ち、うつ伏せになる事に成功した。
息を荒げながら、肩を支点にゆっくりゆっくり膝を曲げる。後は腕に力が入りさえすれば…!



「オイ、何してる」

「!!」


突然、程近くから聞こえて来た低い声に、飛び上がる程驚いた。
勿論飛び上がる事はなく、肩をシーツに押し付け、尻だけを上げた情けない格好のまま固まってしまう。ルフィはそのままの体勢で首を横に倒し、声の主を見上げた。
一歩程距離を置いた場所に、なんだか変わった帽子を被り、腕組みをしてこちらを見下ろす男が居た。
目の下に隈らしきものをこさえた、およそ健康的には見えない、背の高い男が。


「おめー、だれだ?」

「……」

「うわぁっ何すんだ!」

不審感からでなく、純粋な疑問から出た言葉だったが、男は問いに答える事なくがしりとルフィの首根っこを掴んだ。
暴れようにも、力の入らない四肢がもどかしく、せめて口だけはと大声で叫ぶ。
果たしてそれが功を奏したのか、男は案外と優しい動作でルフィをベッドに横たえ、仰のいた身体へ上掛けを被せてくれた。
再び横になったルフィは、不満も露に男を睨むが、男は意にも介していない様子。
そうしている内に、ルフィの腹の方が参ってしまった。「ぐううっ」と盛大な鳴き声を上げ、必死に空腹を訴える。
そうだ、忘れていた。自分は物凄く腹が空いていたのだ。
思い出すと、睨む力さえ失ってしまう。
へにゃりと眉を落とすルフィを見て、反対にふっと口唇を綻ばせた男は、腕を組んだまま徐に右人差し指を折った。そして、ベッドの傍に置いてあった椅子を引き、どかりと座ってしまう。
「肉、食いてェ…」呟いたルフィを一瞥し、更に口角を持ち上げる。
皮肉な笑みではなく、何処かこの状況を懐かしむ様な笑み。
天蓋を眺めていたルフィは、男の表情の変化など気にも留めていなかったけれど。


「マスター、お待たせ!」


部屋の扉が開いたと同時、元気な声が食事を載せたワゴンを運んで来た。
声の持ち主は、先程目覚めた際ルフィを覗き込んでいた熊(らしき生き物)だった。
相変わらず洋服を着込んでいるし、今度は言葉を喋っている。なんなのだ、この不可思議な生き物は。

「此処に置いてくれ」

「アイアイマスター」

男は一切の事に頓着せず、自身の座る椅子の横にワゴンを置く様指示し、被せてあった布を外した。
食欲を大いにそそる、この匂いは。

「!!肉っ!!」

匂いだけで瞬時に判断したルフィは、飛び上がらんばかりに歓喜した(勿論、飛び上がる事はなかったが)。
黒々とした大きな瞳を喜びに見開き、涎を溢れさせる。ちょっぴりシーツに零してしまったけれど、どうか許して欲しい。
そんなルフィを起き上がらせ、背中に大量のクッションを置いた男は、スープ皿を持ち上げたっぷり掬ったスープを、ルフィの口元へと寄越した。
物凄く良い匂いがする!
期待に目を輝かせたルフィは、スプーンを見る事なく雛の様に大きく口を開けた。丁度良い温みのスープが、とろとろと口内へ流れ込んで来る。
頬がとろけそうな程美味い。美味い、のだけれど。

「…なんだこれ、肉ちっちぇー」

「いらねェなら食うな」

「んにゃ、食うぞ!!」

文句を零しながらも最後まで食べ切ったルフィは、空になった皿を見て眉を落とした。全然足りない。毛程も足りない。
不満そうな表情に気が付いたらしい男は、再び右人差し指を折った。
すると今度は、何時の間にやら居なくなっていた熊(らしき生き物)がスープを寸胴ごと運んで来た。
熊(らしき生き物)は、「良く食うなー」と感心しながら皿にスープを注いでくれる。
「おうっ!」元気良く応えたルフィは、早くも口を開き餌待ちの雛と化していた。





「あーんまかった!ごちそうさん!ありがとうな、クマ、おっさん!」

「熊じゃないぞ!いや、熊だけど…いやいや、おれにはベポって立派な名前が有る!因みにマスターの名前はローだ!」

「そうなんか。じゃあ、ベポ、ローありがとうな!スッゲーうまかったぞ!」

寸胴を空にしてやっと満足したルフィは、笑顔で礼を云った。
起きて食事を摂った所為か少しずつ身体が動く様になって来たし、これなら家へ帰る事が出来るだろう。
と思った処で、ふと疑問が湧いた。

ここどこだ?

確か、朝から昼に掛けて湖を目指して森の中を歩いていた筈。
目覚めてから身体が動かなかった事も、今思えば不可解だ。
遅過ぎる疑問の噴出。ことりと首を傾げたルフィの心を読んだかの様に、男――――ローが口を開く。

「お前は森で倒れていたんだ。しろい蕾を食ったんだろう。あれは人体には毒だから、今後一切食うな」

「えーっそうだったんか!まじぃと思った!」

「危なかった処をマスターが助けたんだ。感謝しろよ!」

「そうか!メシも食わしてくれたしおんじんだ!ありがとうな、ロー!」

「……明日村まで送ってやるから、今日はもう寝ろ」

無表情に云ったローの手によって再び横たえられたルフィは、ゆっくりと襲い来る眠気に抗えず、瞼を下ろす。
視界が闇に閉ざされる間際、何処か痛い様な表情を浮かべたローの姿が見えた気がしたのは。
夢現つが見せた幻、だったのだろうか。
















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ベポの呼び方がアレで済みません。一応意味がございますので、どうかご容赦を!

閲覧して下さり、誠に有難うございました!







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