※現パロ、ルフィたん高校生、エース兄やん大学生設定となっております

















pimi










今日初めて、兄弟二人が暮らす自宅へと、ルフィが友人を伴い帰宅した。
玄関へ迎えに出たエースとの挨拶もそこそこに、勉強を教えて貰うからと、慌ただしく自室へ籠もってしまう。
珍しく早くに帰宅していたエースは、お茶を出してやろうとルフィの部屋の扉を叩いた。
「入るぞ」と一声掛け扉を開くと、シャーペンを握り締め頭を抱えたルフィの姿が、目に飛び込んで来る。同時に、悲痛な叫び声も。


「あ〜〜っぜんっぜん分からねェ!!」

「だからそうじゃねェっつってんだろーがっなんで勝手に単語無かった事にしてんだ!」

「そんなん有ったか?」

「有んだよ!ホラ!此処見やがれっ」

「んん?…あれ?さっきは無かったぞ」

「ンなわきゃねェだろボケ!!」

ぎゃいぎゃい云い合う制服姿の二人は、エースが部屋へ入った事に気が付いていない。
プリントと睨めっこするルフィは元より、丸めた教科書を右手に持ち、眉間に皺を寄せるルフィの友人も、目前の事に必死である様子。
無言で一歩、足を踏み出したエースにやっと気付いた友人の方が、ぺこりと頭を下げる。
派手な容姿をしている割に、案外礼儀正しいらしい。
ノートやプリントの散乱する折り畳み式のテーブルへと近付いたエースは、唸るルフィの黒い頭へ手を置いた。そのまま、ぐりぐり撫でてやる。

「んん?」

「折角教えて貰ってんだから、しっかり話聞くんだぞ」

「エース!だってぜんっぜん分からねェもんよー」

「だから教えて貰ってんだろ?大丈夫だ。ゆっくり考えりゃ分かる」

口唇を尖らせるルフィの頭をぽんと叩き、持っていた盆をラグマットの上に載せる。
ちらりとプリントに目を遣ると、ミミズがのたくった様な字で英単語が踊っていた。
そうか。そろそろテスト期間に入るのか。
此処最近忙しく、ルフィとまともに話せていなかった事が悔やまれる。
勉強を教えてやるのは、昔っからおれの役目だったのに。


「オイ。菓子ばっか食ってねェでとっとと問題解きやがれ。コレ終わったら、メシ食いに行くンだろ?」

「おうっサンジのじいちゃんの店だろ?楽しみだなー」

「そうだ。分かったンならオラ、次はコッチだ」

ポコンと丸めた教科書で発破を掛けられ、俄然やる気を出したルフィは、真剣な表情でプリントに目を落とす。
たまにしか見せねェ、この真剣な顔が又可愛いんだよなァ。
ルフィの横顔を見つめ、うっとりと独りごちたエースだったが、ふと、交わされた会話に違和感を覚えた。
今何か、聞き捨てならない言葉が聞こえやしなかったか。


「エース?どうしたんだ?」


考え込んだまま、何時までも部屋を出て行かないエースを不思議に思ったのか、ルフィがプリントから顔を上げ、こちらを見た。
首を傾げる姿も可愛い。可愛いったら可愛い。
ルフィの余りの可愛さに気を取られ、危うく大事な事をスルーしてしまう処だった。
思い出してしまうと、先程の言葉がグルグルと脳を旋回し始める。増すのは、不安。


「…ルフィ、晩メシ」

「そうだっ聞いてくれよエース!今日な、サンジのじいちゃんがやってる店で肉食うんだ!!」

恐る恐る問うた言葉へ、被さる形で返って来たのは、喜びを隠さない言葉。
多忙故、作り置きしておいた簡単な料理を、別々の時間帯に摂る毎日に胸を痛めていたエースは、今日こそ手の込んだ美味い料理を二人で食べようと、材料を買い込んでいた。
エースが調理する間、キッチンカウンターで出来上がりを待つルフィと交わす、何気無い遣り取りを心底楽しみにしていたのに。

けれど。嬉しそうに話すルフィの楽しみを、無情にも奪う事が果たして出来るだろうか。
――――いや、出来る筈がない。


ルフィ、ルフィの笑顔、ルフィの寝顔。


この三つが己の好きなものだと公言し、病的なまでに弟を偏愛する兄は、己の願望や希望より、弟のそれを優先するのが常だった。
ルフィの喜ぶ顔を見る事が、それ即ち己の喜びに繋がるからである。
故にエースは、「そうか」とだけ云い残し、ルフィの部屋を後にした。
本当は、黙って成り行きを見守る振りをして、腹の底では笑っている(歪み切ったエースの主観)ルフィの友人の胸倉を掴み、「クソガキがウチの可愛い弟を誑かすんじゃねェ!!」と詰ってやりたかった。
とっても、物凄く、心底詰ってやりたかったが、懸命に堪えた。そんな自分を褒めてやりたい。
部屋を後にした途端、先程までの平静さを失くしたエースは、ギリと奥歯を噛み締める。
結局、何も云わずルフィ達を送り出したエースは、食事を作る気にもならず、インスタントラーメンを啜った。侘しいなんてものじゃない。
食事と片付けを終え、苛々とルフィの帰りを待つ。
視線を、時計と、玄関へ続く廊下とを行ったり来たりさせながら待っていると、ガチャリと扉の開く音がした。
時計の針は、丁度二十二時を指している。
これ以上遅くなる様なら、連絡を入れるつもりだった。
何時もの様に玄関まで迎えに出たエースは、機嫌の良いルフィをリビングに連れ、ソファへ座る様促した。
淹れてやったジュースをテーブルへ置き、自身はその隣りへ腰掛ける。
「満足したか?」と問うと、「スッゲー美味かった!」と輝く様な笑顔で答えたルフィに、喜びと同時ちくりとした痛みを覚えたが、今は「良かったな」と髪を撫でてやるだけに止(とど)めた。
ルフィを待つ間、考えていた事が有る。本当は以前から考えていた事なのだが、伝えるタイミングを逸していた。これを機に、伝えておく必要が有る。
ルフィの前で、平静を装う事が出来無くなる訳にはいかない。
焦燥を駆り立てる芽は、早々に始末しておかなければ。

ジュースを一気に飲み干したルフィを、膝に抱き上げ向かい合う。額を合わせれば、益々距離は近くなった。
髪が頬を刺激し、くすぐったさに笑むルフィの瞳を見つめる。
濁りの無い黒には、独特の魅力が有る。
そんな、まるで魔力を秘めた様な瞳を見つめながら、エースは軽い調子で告げた。


「ルフィ。これからは又、兄ちゃんが勉強見てやる」

「エースが?ん〜…でもガッコあるじゃねェか」

「そんなモン気にすんな。ちっとくれェ時間使っちまっても、ビクともしねェさ」

疑問を返すルフィににやりと笑い掛けたエースは、事実優秀であった。
易々と希望していた国立大学への入学を果たし、成績も申し分無い。
生活リズムが変わり、多忙を極めるエースに迷惑を掛けまいと、ルフィなりに気を遣ってくれているのは知っていたが、そんな事は必要無いのだ。
ルフィを目に入れても痛くないと本気で思っているエースにしてみれば、ルフィが自分以外の男と二人きりで居る事の方が余程迷惑なのである。
気持ちを端的に表現すれば、「兄ちゃん以外の男と口を利くな」と横暴としか思えない事を云いたくなる程、腹が立つ。
つまりは、只の醜い嫉妬なのだけれども。

「それとも、おれに教えられるの厭か?」

「んにゃ!嬉しいぞ?」

「決まりだな」

ししし、と笑み零すルフィの頬にキスをすると、細い腕がエースの首へ回る。
こんな風に、ルフィとじゃれ合うのも久し振りだ。多忙だった自身の身が恨めしい。
寂しい思いをさせていたのだろう事も予想出来、尚一層不甲斐無く思った。
これからは時間を巧く遣り繰りし、ルフィにいらぬ気遣いをさせずにおこう。
どんな人間をも簡単に虜にしてしまうルフィだから、兄の自分がしっかり監督していなければ、何処へ連れ去られるか分かったものじゃない。
何よりも、エース自身がルフィ欠乏症になりかねない。


「ルフィ」

「エース、ん」

美味しそうにエースを誘う真っ赤な口唇へ柔らかな口付けを施せば、抱き付く力が増した。
背中を撫でてやると、緊張が甘くとろける。
そうだ。丁度小腹が空いていた処だった。このまま、食べてしまおうか。
万年欠食児童であるルフィも、抵抗はしない筈だ。



勿論。食後のデザートを、たっぷりと用意する必要は有るだろうが。















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【エール、無機質に嫉妬するエース】
嫉妬心を表面に出さないのは、ルフィたんに心から楽しんで貰いたいから。
そんな健気(というよりルフィたん至上)な兄やんを書くのは楽しかったです。
巧く表現出来ておりませんが…!
機会を与えて下さったらむ様へ、謹んで捧げさせて頂きます。
リクエスト下さり、誠に有難うございました!
返品・交換可ですので、お気軽に仰って下さいませ。
これからも、当サイトを宜しくお願い致します!
※らむ様のみ、踏み付ける、壁に投げ付ける、味噌汁の具にしてみる、などご自由にして下さって構いません







10/11/12
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