※拍手お礼文
 10/10/17〜10/11/04掲載
※?×
※年齢操作有り
















広大な森の奥深く、人間にもその他の動物達にも荒らされる事の無い場所が存在する。


安寧、孤高。

或いは、孤独。

どう表現しようとも、只黙然と、そこに存在するだけ。











出ずる日蕾む花













「おっかしいな〜。なんでつかねェんだ?」

手に持った枝を振り回しながら、生い茂った雑草をかき分ける。
こんな陽光の届きにくい場所に、良く鬱蒼と生い茂っているものだ。
それも、毎日森へ入っているルフィにも分からない種のものばかりが。
しかしそもそも、ルフィは植物の名など碌に知らない。知っている事といえば、名ではなくそれらを食べられるか否かという事だけだ。
故に、逞しく生い茂る雑草の合間から顔を出す、背の高い茎の頂上にあるちいさなしろい蕾を、口に含んでみた。勿論、好奇心から。
だけでなく、純粋に腹が減っていたのだ。
ルフィが、常に腹を撫で・抱える程の欠食児童状態であるのは、その家庭環境に起因する。
幼い頃に両親をいっぺんに喪くし、三つ歳の離れた兄と二人暮らし。
未成年であるルフィにまともな働き口など無く、又同じく未成年である兄・エースも、牛乳配達や新聞配達といった仕事しか回して貰えない。
そこから得た微々たる稼ぎで、毎日をなんとか食い繋いでいる。
村全体が貧しく、まだ未成年である二人を養護しようなどという後見人が現れる事もない。皆それぞれの暮らしに精一杯なのだ。
そういった事情から、ルフィは何時も腹を空かせていた。元々が大食らいであるから、ちょっとやそっと食べただけでは、満足出来る筈もない。
しかし、余分な金も無い。
ならばどうすれば良いか。ルフィの持つ数少ない知識や情報、思考を総動員させた結果、ただで食べられるものを探せば良い、と、考えついたのである。
ただで食べられるもの。
湖で釣れる魚か、自生している植物。もしくは、村に一軒だけあるパン屋の食パンの耳。
隣り街を治める貴族が贔屓にしているというそのパン屋は、幼馴染みの両親が営んでいて、朝の早くに店の裏口へ行けば、サンドウィッチを作るのに余った食パンの耳を、こっそり分けて貰える。
勿論、所望するサンドウィッチを受け取りに来た、使いの者の相手に忙しい両親ではなく、その息子、サボが分けてくれるのだ。
村の者達から遠巻きにされている兄弟に、わざわざ親切にしてくれるのは幼馴染みであるサボ位のもの。
三人の付き合いは、エースやルフィの両親が健在だった頃から始まっており、相当な年月に上る。
村の悪ガキ三人組と云えば、エース、サボ、ルフィの事を指すと誰もが知っていた。エースやサボが考えついた悪戯を実行しては、両親や村の人間に叱られたものだ。
その記憶も、今はもう薄れつつあるが。


今朝も、大量のパン耳を貰って帰ったルフィは、自分の分を一瞬にして食べ終え、残りは牛乳配達の仕事に精を出しているエースの為に残しておいた。
満足したのは、それから五分。
隙間の空いた胃を埋めるべく家を出たルフィは、宝の山ならぬ食材の宝庫である森へ向かう事にした。
家から湖まで子供の足では結構な距離が有るが、そうも云っていられない。
湖へ向かう道すがら、自生する野いちごや花の蜜を吸い、なんとか空腹を凌ぐ。
けれどそれももう限界だ。早く湖に…。
そろそろだ、もうそろそろ。
毎日通う道。獣道に近いとはいえ、人間の通った形跡の残る一本道を歩いて来た。
迷子になりやすいルフィでも、一回で覚えた道だ(そもそも間違える筈もない)。
なのに、無い。
大きな大きな湖が、何処にも見当たらない。
ん?なんでだ?
ルフィは首を傾げた。
だって、昨日は確かにあった。森の規模を表すかの様な、広大で澄んだ湖が、確かに此処にあったのだ。
はて。
ルフィは更に首を傾げた。傾げ過ぎて、頭が地面にくっ付いてしまいそうな程。
そして考えに考えた。
きっとカンチガイしたんだ。今日はいつもよりいっぱいパンの耳をもらえたから。うれしくて、まちがえちまったんだ。そうだ、そうにきまってる。
結論を出したルフィは、先を急ぐべく歩き出した。
もう少し行けば、目印の木が見えて来る筈だから、と。





一向に見えて来ない目印の木は、良くエースとサボ、ルフィの三人でよじ登って遊んだ大木。
しかし今は、その思い出すら遠く、ルフィはひたすら歩き続けていた。
ずっとずっと、終わりの見えない一本道。
何時しかそこには、見た事の無い風景が広がっていた。
どの辺りからだったかは分からない。
ちいさなしろい蕾をつけた草花がちらほら姿を見せ始めた事に気付いた頃には、周囲の風景は一変していた。
陽光が差し込む暖かな風景から、昼間でも薄暗いじめじめとした空気の漂う、不気味な風景へ。
その場に立ち止まったルフィは、膝まで伸びている細い茎を見つめた。
見た事の無い植物だけれど、果たして食べられるのだろうか。
腹と背中が殴り合いを始めそうな程、腹が減っていた。兎に角減っていた。なんでも良いから口にしたかった。
ルフィにとって、辿り着けない湖より、そちらの方が余程重要且つ重大な事だった。
極度の空腹により、しろい蕾が角砂糖に見えて来た。
まだ母が健在だった頃良く淹れてくれた、甘い甘いミルクティーに沢山入った、角砂糖の様に。

ふらふらとしゃがみ込んだルフィは、ちいさなしろい蕾をぶちりと手折った。
鼻先を近付けると、何処か甘い香りが漂った。
ふんわりと、誘う様な不思議な香り。
これなら大丈夫だろう。ルフィは大きく口を開け、蕾を放り込んだ。


「ん…、っ!!ぺっぺっなんだこれ!まっじぃ〜〜!!」


噛んだ瞬間、じゅわりと苦味が溢れた。苦いなんてものじゃない、毒だ!
毒なんて飲んだ事は無いけれど、兎に角毒だ。身体に悪影響を与えそうな程の苦味だった。
直ぐ様吐き出したルフィは、涙目になりながら口唇を拭った。
飲み込まず吐き出したのに、舌が痺れている。
今日はとんでもない一日だ。
肝心の湖には辿り着けないし、腹が減って仕方が無い。
次第に腹の立って来たルフィは、何がなんでも湖で魚をとって食ってやろうと決意し、大きく一歩を踏み出した。


「あ…?なんか、ねみ…」


つもりだった。
踏み出した筈の右足は、土を踏み締める前に力が抜け、そのままちいさな身体ごと横へ倒れ込んだ。
ルフィの身体を受け止めたしろい蕾は、潰された衝撃で更に濃厚な香りを放つ。
辺り一帯を、甘い甘い香りが満たした。
そんな甘い香りに惹かれたのか、身を潜めていた小動物達が集まって来た。
ふんふんと忙しなく鼻を蠢かせながら、意識を失うルフィの周囲を歩き回る。
どうしようか。そんな風に相談している様だった。

がさり。

威嚇の様に鳴った音に素早く反応した動物達は、深い緑を目指し一目散に駆けて行った。
後に残ったのは、未だ濃厚に香る甘い匂いと、目を閉じ倒れ込んでいるルフィだけ。
そこへ、一つの気配が近付いて来る。
ゆったりとした歩幅でルフィの下まで歩いて来ると、空気を揺らす事なく立ち止まった。
その場へしゃがみ込み、ちいさく開いた口唇へ手をかざす。
息が有る事を確認してから、徐にそのちいさな身体を抱き上げた。
抱き上げられても、ぴくりとも反応しないルフィを一瞥し、音も無く地面を蹴った。

最後に残ったのは、むせ返る程の甘い香りだけだった。















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さて、お相手はどの殿方でしょう。
(連載になってしまいました済みません…)

閲覧して下さり、誠に有難うございました!







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