※拍手お礼文
10/10/01〜10/10/17掲載
流れ行く情景は、斯くも
芝生の敷かれた甲板に寝っ転がり、腕にはもこもこの毛皮に覆われたチョッパーを抱く。
肌寒い程度にしか上がらない気温。重たい雲を蹴散らす事が出来無かった太陽は、今頃ふて寝でもしているのだろう。
良い気なものだ。こっちは窮屈な思いを味わっているというのに。
赤いベストにハーフパンツ、普段通りの格好で走り回っていたルフィを捕まえて説教したのは、蜜柑の木を手入れしていたナミだ。
大音量のくしゃみを聞き咎め、長袖の服を押し付けて来た。
「風邪なんかひかねェ」と渋ったのに、無理矢理頭から被せられ、危うく麦わら帽子を突き破る処だった。
ここで云う事を聞いておかないと、どんな罰が待っているかしれない。ルフィはぶつぶつ文句を云いながらも、素直に袖を通した。
一旦防寒してしまうと、案外と寒さが気になるものだ。
タイミング良く休憩に訪れたチョッパーを抱き込み、現状に至る。
寒さに強いチョッパーは、文句も云わず大人しく腕の中に収まってくれたまま。
どうやら、ルフィのくしゃみは医療室まで聞こえていたらしく、長袖を着るのは良い事だとまで云われてしまった。
動きを抑制される格好が嫌いなルフィにとって、なんら良い事など無いが、医者であるチョッパーが云うのなら仕方無い。
取り敢えず、今日だけはこの格好でいてやろうと、トイレに行って着替える事は諦めた。
時折強く吹く風が、ルフィの前髪を攫う。
見上げた空は、心底不味そうな色形をしていて、今にも落ちて来そうだな、と思った。
あー…そう云えば、腹、減って来たなァ…。
「腹減った…」
「もうすぐおやつの時間だぞ。そろそろじゃ…」
「オラ野郎共、おれ様特製のオイシーイおやつ、“シュツルーテル”だ。わざわざ持って来てやったんだから、熱いウチに食え」
「うおー!んまほー!んぐ……っ、ひゃんふぃ、ふへーほほれ!」
「喋るな飛ばすな!ちったァ味わって食えねェのかテメェは!」
サンジが甲板に姿を見せた途端、ルフィはその手に掲げ持たれていた菓子を奪い取り、瞬時に口の中へと放り込んだ。
腕が戻りきる前に菓子の姿が消える。なんという早技。
寝っ転がっていた身体を起こし、菓子の出来栄えに毎度の如く感激したルフィは口の中に残したまま叫ぶ。
ルフィの膝の上にちょこんと座ったまま菓子を食べていたチョッパーの帽子にまで、菓子の欠片が降り注いだ。
「あ、勿体無ェ」
「あァ!?」
「ん?」
ルフィは帽子に付着した欠片を躊躇い無く伸ばした舌で舐め取り、ついでに口の周りに散らばったクリームまでも舐め取る。赤い舌が生きものの様に動いて、やけに艶めかしい。
少しの食糧も無駄にはしない、ルフィらしいと云えばルフィらしい行動。
それでも、彼に思いを寄せる者にとっては刺激が強過ぎる。
驚いて目を剥くサンジを余所に、自分の分を平らげたルフィはチョッパーを膝から降ろすと、菓子を持って立ち上がった。
目指すは、先程の自分と同じ様に芝生へ寝っ転がっている男。ガーガーと盛大ないびきをかいているゾロだ。
「あっオイ、そりゃマリモの…」
「わーかってるって!おーいゾロ!起きろ!おやつだぞおやつ!」
「………アァ?」
「三時のおやつだ!すんげェうめェぞ!ほらっ」
大の字になって爆睡していたゾロの腹へ跨ったルフィは、持っていた菓子をゾロの口元へ無理矢理に押し付ける。
眉間の皺が五割増しである事など、歯牙にもかけていない。
ルフィを腹に乗せたまま起き上がったゾロは、がしがしと乱暴に頭をかいた。
「だァァっいらねェよ!お前が食え!」
「えぇ!?良いんかっ?ホントにおれが食っても、後で怒んねェ?」
「何も云わねェっての!どうでも良いから、人の邪魔だけはすんな」
「良しっじゃあ、ん!」
「あ?」
「ゾロも一口食え!折角サンジが作ってくれたんだ、うめェぞ」
あ、残りはおれが食うからな!一口だぞ一口!
ゾロは口を真一文字に引き結び、食べる意思の無い事を伝えるが、笑いながら押し付けて来るルフィに、手を離す気は無さそうだ。
人一倍食欲旺盛な癖に、何故我慢してまで無理矢理に食べさせようとするのか。
疑問に思いながらも、一度云い出したら聞かないのがルフィだと知っている。
口の周りをクリームでべたべたにされたゾロは、観念して口を開けた。ここまで汚れたら、食べたも同然だろう。
差し出された菓子を少しだけ齧り、残りはルフィの口へと返してやった。
素直にゾロの手から菓子を食べたルフィの顔が、みるみる笑顔に変わる。
「ふぐっ…ふぁ、ふへーはほ!?」
「……甘ェ…てオイ、飛ばすな!」
行儀悪く、飲み込む以前から話し始めるルフィの口からは、又もや菓子の欠片が飛ぶ。
互いに向かい合った状態だった所為で、宙を旅した欠片はゾロの顔へと無事着地してしまった。
「ぷはーっんまかった!んあ、飛んじまった。ん、」
気付いたルフィが、頬に付いた欠片を舐め取ると、背後で石の如く固まる気配が一つ。
何時の間にか医療室に戻ったチョッパーではなく、菓子を作った張本人であるサンジだ。衝撃の数値を現すかの様に、銜えていた煙草が空になった皿にぽとりと落ちる。真っ白。
「オイコラ、くすぐってェ」
「だって勿体無ェじゃんか。いてっ」
「人の顔に飛ばしたモンまで食うな、アホ」
サンジの変化に気付く事なく、二人は平然と遣り取りを続ける。
今度は、鼻の頭に付いた欠片を取ろうとしたルフィの顎に、ゾロが噛み付いた。
痛いと喚くルフィの口唇を舐めた後、どうだと云わんばかりに口角を上げて笑んだ男は、案外とこの状況を楽しんでいる様に見える。
仕返しにと、口唇に吸い付くルフィの腰を抱いたゾロは、そのまま後ろに倒れ込む。二人して眠る体勢だ。
周囲に似合わない花を飛ばす二人が、健やかな眠りに就くまで、後五分。
呆然と固まっていたサンジが、砂になってさらさらと流れて行くまで。
残す処。後、二秒。
了
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迷子常習犯×愛すべき馬鹿=きもちわるい管理人によるきもちわるい小説
こんな結果になったよ^∀^(全くお礼になってません済みません)
閲覧して下さり、誠に有難うございました!