ha!-ha!










結構な規模の港町へ停泊する事になった。
船番のアホ剣士を除き、皆好き勝手に散って行く。
斯く云うおれは、自由奔放過ぎるルフィの手綱を握る様ナミさんに云い渡され、実際、首根っこを掴んで街を歩いていた。
イイ男だと振り返られるなら兎も角、ギャーギャー騒がしいガキの首根っこを掴む怪しい男として、注目を浴びている。
実に不満だ。
船を降りた時は普通に歩いていたが、「メシメシー!あ、あっちか!」と叫びながら突如走り出したルフィをなんとかとっ捕まえてからは、ずっとこの状態。
見るからに、ボリュームの有りそうな店ばっかり見付けて突入しようとするから、手に負えねェ。
おれは、地元の名産品を売り物にした店に入りたいんだ。
別に、洒落た店に入りたいワケじゃねェが、コイツが選ぶ店はどうにも無骨過ぎる。
おれの作ったモンを食って舌肥やしてる癖に、肉料理に限ってはなんでも良いなんざ、おれへの侮辱か。
意味も無く闘争心を燃やしたおれは、ルフィの首根っこを掴み、街の中心部へ向かって歩き出した。
中心部は、店も多いし人間の数も多い。
それに、美味いメシを食いたきゃ、地元の人間に聞くのが一番だ。
老若男女、色んな目ン玉から注目される中、豪快な体型をしたおばちゃん(若くて美人のお姉さんには逃げられた)から聞き出した店を探す。
暫く歩くと、教えられた路地を左へ入った処に店を見付けた。
おれに掴まれていたルフィは、空腹で息も絶え絶えだったが、手を離した途端、店の扉を壊す勢いで中へ入って行った。
ルフィの後に続き店内へ入ったおれは、空いていたカウンター席へ座る。
中は成程盛況らしく、おれ達が座った席以外は全て埋まっていた。


「いらっしゃいませ。こちらメニューです」

「おれ、肉な!!に、むぐっ」

「えっ?」

注文を取りに来た女の子の店員に迫る勢いで叫んだルフィの口を塞ぎ、代わって注文する。
レディを驚かせんじゃねェ、クソゴムが。

「お嬢さん、コイツには適当な肉料理を見繕って持って来てやってくれ。おれには、この店一番の自慢料理を」

「あっ、はい。分かりました。少々お待ち下さいませ」

「肉はいっぱいな!」とおれの腕を外しルフィが付け足すと、慌てて厨房へ駆けて行った店員を見送り、改めて店内を見渡した。
女の子のレベルも高ェし、店も綺麗だ。
稀に汚くても美味い店は有るが、話にならねェ。
店が清潔に保たれてねェと、どんなに美味いメシも霞んじまう。
何より、店が汚ねェと、若い女の子が寄り付かない。死活問題だ。
一頻り店内を眺め視線を戻すと、隣りに座るルフィが、こっちを見ている事に気付いた。
いや。視線はおれを通り越し、反対隣りに座るおっさんの手元に注がれている。
首を巡らせ見てみると、おっさんがフォークに突き刺したでかい肉の塊を、口に入れる処だった。
皿に残った肉の断面からして、なかなか質の良い肉らしい。
目をキラキラ輝かせながら、涎を垂らすのも分かる。

「オイ、ルフィ」

「ん?なん」

「ガキかテメェは」

おれの呼び掛けに答え、こっちを向いたルフィの口元を指で拭って、デコを弾く。
打撃の利かないルフィは、一瞬驚いた後、何故か満面に笑みを浮かべた。
なァに笑ってやがんだ。


「サンジは優しいな!」

「あァ?」

眉を跳ね上げて聞き返すが、運ばれて来た大量の肉料理に意識を持って行かれ、おれの声は聞こえていない。
おれの目の前にも料理が置かれ、結局、突然の褒め言葉の意味は分からなかった。

















***

昼メシを食い終えたおれ達は、近くにあるという食材市場へ向かった。
街のほぼ中心にあるそこは活気に溢れ、気の遠くなる程色んな食材が売られている。
一つ一つ吟味しながら食材を買い付けていると、何時の間にか、一緒に居た筈のルフィの姿がなくなっていた。
焦って周りを見渡すも、何処にも居ない。

「あいつ、何処行きやがった…!」

大量の食材を抱えながら走り出すが、人が多過ぎてなかなか前に進めない。
靴は踏まれるわぶつかるわ、それどころじゃねェ。
別にほっといても良かったが、ナミさんに頼まれた手前野放しにゃ出来無ェし、何より、ルフィと二人きりで行動出来るなんざ、滅多に無ェ事だ。
この機会を無駄には出来無ェ。
ルフィが興味を示しそうな店を重点的に見て回り、七件目の店で特徴的な後ろ姿を見付けた。
両手に肉の刺さった串を持ったルフィは、後ろに迫ったおれに気が付いていない。
無性にイラついたおれは、真っ直ぐ伸びた背を、思いっ切り蹴り倒してやった。


「オイ、ルフィ!テメェ何勝手に居なくなってんだ!!」

「ブフェッ!!あ〜〜〜っ!肉落ちちまったじゃねェか!ベンショーしろベンショー!!って、おーサンジ!」

「『おーサンジ』じゃねェ!何やってんだテメェは!」

「悪ィ悪ィ、スッゲー良い匂いがしたからよー」

「良い匂いだろうがなんだろうが、勝手にどっか行くんじゃねェよボケ!!どんっだけ捜し回ったと思ってんだ!!」

立ち上がったルフィに詰め寄って怒鳴っても、聞いちゃいねェ。
勝手に居なくなった事は悪いと思っているらしく、駄目にしちまった肉について何も云って来ねェが、未練たらしく地面に落ちた肉の欠片をチラチラ見ている。
コイツ…っ迷惑掛けた人間より肉か!おれのレベルは肉より下かクラァ!!
二人きりだと浮かれてたおれが馬鹿みてェじゃねェか。
コメカミがピクピク痙攣しているのが、自分でも分かる。
一瞬にして、怒りが脳内を駆け巡った。
さっきの比じゃねェ。コレは。


「ルフィ。テメェちょっとこっち来い」

「ん?何処行くんだ?」


おれの声音が変わった事に気付いたのかそうじゃねェのか、歩き出したおれの後ろを素直について来たルフィを、人気の無い路地へ引き入れる。
ルフィを探し回った時に見付けた場所だ。
活気の有る大通りとは違い、競争に負けた様な店ばかりが立ち並ぶ。
殆どが開店休業状態で、店先に客の姿は無い。
店主の姿も見当たらず、くたびれた食材だけが処々置かれていた。
それを横目に見遣りながら、歩を進める。
後ろを歩くルフィは、頻りに行き先を知りたがったが、無視してやった。
やがて辿り着いたのは、シャッターの降りた店ばかりが立ち並ぶ、外灯が切れ掛かった路地の行き止まり。
ルフィを探していた時にこの路地に入り込んでしまい、途中で様子が可笑しい事に気付いて引き返した場所だ。
思った通り行き止まりだったか。お誂え向きに、人気が一切無い。
まァ、こんな場所に用の有る奴なんざ居ねェか。


「んん?サンジ、ここ何も無ェぞ?」

「いンだよ。オラ、コレ持ってろ」

立ち止まったおれの直ぐ後ろへ歩いて来たルフィは、周囲を見回し怪訝な顔をする。
首を傾げる奴に食材を押し付け、煙草を取り出して口に銜えた。
深く息を吸い込めば、荒々しく巡っていた血液の流れが緩慢になる。
思考は、冴えたままだ。


「サンジ〜、なんか暗くなって来たぞ。早く帰んねェとメシ食えなくなるじゃねェか」

「仕込みは済ませて来た。テメェはメシの事しか頭に無ェのかよ」

「そんな事無ェぞ。おもしれェ事とかも好きだ!」

「あっそ。…んじゃあ今からする事も、気に入るんじゃねェ?」

「なんかすんのか?」

「…あァ。おれと、お前の二人で、な」


短くなった煙草を地面に落とし、爪先で潰した。
立ち上っていた紫煙が途切れる。
意識して言葉を区切れば、一瞬にして取り巻く空気が変化した。
両手が塞がったままのルフィを、薄汚れた壁に押し付ける。顔の横に腕をつき、その身体を囲った。
様子が可笑しい事に気付いたのか、ルフィの視線が泳ぎ始める。
隙見て逃げ出そうとしてんのが丸分かりなんだよ。
気付いたんなら、大人しくイイコにしてろ。
泳ぐルフィのでけェ目を見つめながら、鼻の頭を齧った。

「いてェっ何すんだっ!」

「おもしれェ事だよ。暫く口閉じてろ」

「イヤだっ早く帰りて、んむっ」

首を振るルフィの頬を掴み、無理矢理口唇を合わせた。
栄養状態の良い口唇は、ぷるんと弾力が有って舐め回したくなる。
思うままべろりと舐め上げて、下口唇を吸った。
口唇の合わせ目に舌を差し込もうとしても、歯を食い縛って舌の進入を強硬に拒否される。
抵抗される方が男は燃えるってのを知らねェのか。
声に出さず笑った。左手で丸い顎を捕らえ、右手を晒したまんまの腹へと滑らせた。

「んんっ」

脇腹を指先で撫でると、咽喉の奥で声が上がった。
あァ、そういやココ弱かったよな。
ゆるゆると右手を上昇させると、障害物に行き当たった。
薄い色をした乳首の先端を、指が掠める。

「あっ、ん」

口唇が開いた隙を見逃さず、舌を捻じ込んだ。
ルフィの舌を押しのけて、口蓋をなぞる。
ビクビクと震える舌が、おれの舌を追い出そうと絡んで来た。

「ぅんっん、ぁっ」

撫でていただけの乳首を指先で引っ張ると、舌の動きが鈍くなった。
引っ込んじまったルフィの舌を尖らせた舌でつつくと、がさりと音が鳴った。
腕伸ばして地面に置きゃ良いものを、律儀に持ってアホかコイツは。
こういう事を始めちまうと、何時も以上に頭が回らなくなるのが、ルフィらしくて可愛い。

…可愛いんだよな、結局。
どんなに理不尽な真似されてもほったらかされても、おれじゃなくおれの作る食いモンにばっかり執着されても。
おれは結局、心底ルフィに参っちまってる。


「ぷは…っサ、ンジ…?」

「ナミさんが待ってる。帰るぞ」


行き着いた結果に白けちまった。身を離し、ルフィに持たせていた食材を抱え踵を返す。
連なった屋根の隙間から洩れる橙が、いやに目に沁みる。
馬鹿馬鹿しい。夢見る乙女か、おれは。
ルフィに恋愛の情緒なんざ求めたおれがアホだったんだ。
自嘲に口角を歪めながら歩いていると、突然腰辺りに衝撃を感じた。
食材を取り落としそうになりながらなんとか踏み止まって視線を落とすと、腰に二本の腕が絡まっていた。
簡単には解けねェ程、強く。


「…何してんだ、お前」

「ん。サンジが元気無ェから、こーしたら元気出るかもしんねェと思って」

「……」

「サンジ?元気出ねェか?駄目か?」

「………………………出た」


前を向いたまま、聞こえるか聞こえないか分からねェ程の声でぼそっと云うと、「そっか!」と心底嬉しそうな声が上がった。
ちくしょう、小悪魔みてェな真似するコイツも、お手軽なおれ自身にもイラつく。
心を乱しに乱しているおれを余所に、ルフィは食材を持つおれの腕を持ち上げて、懐に潜り込んで来やがった。睨んでも、全く気にしちゃいねェ。
コイツ、天然なのも好い加減にしねェと、マジでその辺でやっちまうぞ。

警告とは名ばかり。腹立ち紛れに、呑気に笑ってやがる鼻頭を強く齧って、大口開けた口唇にキスしてやった。















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「おれの傍から離れるな」「えっ」どきん☆
という展開を予定しておりました。
自分の腐った卵みたいな思考が物凄く恥ずかしくなったので止めました。
そしたらこんな事故を起こしました^∀^
単独事故から玉突き事故に発展した気分です(ツバキは免許を持っておりませんので完全な脳内事故です)。

閲覧して下さり、誠に有難うございました!







10/10/15
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