青年Cの矛盾



「そりゃあびっくりしましたよ。僕はその時カウンターでお客さんに出すドリンクを作っていました。十一時半…くらいだったかな、そろそろ店じまいか…というあたりでした。週末だったのでお客さんはそれなりに入っていました。
バーに入ってきた人が…いや、はじめはお客さんだと思ったんですけどね。ずかずかとカウンターを乗り越えてスタッフルームに入っていこうとするんですよ。何事かと思いますよね…一瞬関係者なのかな?とも思いましたがどうも様子がおかしい。
…なんだか普通の人とは違うような…やばい雰囲気を感じたんです。そりゃ飲み屋だから酒に酔ったお客さんが多少暴れることはあります。でもね、その人は酒を飲んでいる様子じゃなく…どこか狂ったような…ええ、うまく言えないんですが、とにかく本能的に危険を感じました。
僕は奴がスタッフルームへ入る道を塞いで『この先は関係者以外立ち入り禁止になっています。ご用件はなんでしょうか?』のようなことを言ったんですね。奴は意外にも冷静に『A子を迎えにきました』と返答しました。そこで思いました。こいつがA子さんをストーカーしている奴か、と。
え?あ、はい。僕は彼女からストーカーされている気がする…といった相談を受けていたんです。そうですね、初めて相談を受けたのは五ヶ月くらい前で、彼女は半年ほど前から妙な気配を感じていたらしいです。ええっと、だから彼女がストーカー被害を受け始めたのは二月終わりくらいですかね。
いや…その時点では警察を呼ぼうとは思いませんでした。だって彼は暴れたわけでもないし、彼がストーカーだという証拠はありませんでしたから…でもこいつと彼女を会わせては駄目だと思いました。いま思えばどうしてあの時警察を呼んでおかなかったのかと思います。
間の悪いことにそのとき帰り支度を終えたA子さんが僕に一声掛けるためにスタッフルームから出てきたんです。彼はA子さんに詰め寄りました。『迎えに来てやった。帰るぞ』のようなことを言っていたと思います。A子さんはすっかり怯えて足がすくんでいる様子でした。そりゃそうですよね、見知らぬ人間にそんなことを言われたら驚くし、なにせ彼女はストーカー被害を受けていたんですから。
奴は彼女の手首を掴んで、彼女がそれを振り払おうとしました。僕はストーカー野郎を止めようと強引に彼女との間に割って入り、お引取りくださいと言って彼女を庇いました。すると奴はそれまでの冷静な様子とは一変して鬼のような形相で僕を押しのけて彼女に殴りかかったんです。
その場にいた人間みんながびっくりして、男数人で奴を取り押さえました。その後、警察を呼んでストーカー野郎を引き取ってもらいました。
信じられなかったですよ、あんなに可愛い子を殴るなんて…ストーカーってみんなあんなに凶暴なんですかね…まあ彼らは人であって人でないような存在ですからね。怖いです。
救急車ですか?呼ぼうとしたんですが彼女が強く拒否したので…幸い目立った怪我はなかったので彼女はその場にいたもう一人の女性従業員に病院まで送らせました。
任せた従業員の名前ですか?…E子…いや、D子さんです。はい、アルバイトの子でA子さんの一つ下、いや、一つ年上かな?どんな子って聞かれても…目立たない、おとなしい子ですよ。明るいA子さんとは対照的で…うーん、正直彼女のことはよく知らないですね」



女性Dの証言

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