ウサギを一羽二羽と数える場合があるだろう。勿論、一匹二匹や一兎二兎とも数えるが、それは言うまでもない。何故、鳥のように一羽二羽と数える理由をご存知だろうか。これには様々な説があるのだが、私の知る説を話させて欲しい。あなたがご存知だったら申し訳ない。もし、仮にあなたがご存知でないとして(ご存知の場合は寛大な心で聞いて欲しい)話そう。

かつて江戸時代の日本では「鳥肉以外の肉は食べていけない」という決まりがあった。ただ、内容はそうなのだが正確には「二本足以外の生き物の肉を食べてはいけない」だったのだ。鳥肉以外の肉も食べたいと思った民衆は考えた。他に二本足の動物はいないがどうか。そこで浮かび上がったのが、ウサギだという訳だ。考えて欲しい。ウサギは二本足で立つだろう?彼らはウサギを鳥肉として食べた。その名残で今でも一羽二羽と数えるのだそうだ。因みに二本足で立つ動物なら他にも居るじゃないか何故ウサギなんだなんて品のない質問はしないで欲しい。何故って私もちゃんとした答えを知らないからである。多分、猿よりウサギの方が旨そうだと考えたからではないだろうか。多分だが。

このようにたらたらと信憑性の低い使えなさせうな蘊蓄(うんちく)語ったのには訳がある。

私が白いウサギに導かれるように現在進行形で穴を落下中だからだ。

この言葉を聞いて『不思議の国のアリス』を思い出さなかった人がいるだろうか?アリスは深い深い穴を落ちている間、暇なので考え事をしていたと記述にはあったが、実際この状況になるとそれはもう大変に頭の中がパニックになるものだ。アリスは相当肝が据わっていたのか相当抜けていたのか(恐らく前者だった気がする)、とにかく私はそんなアリスとは違い一般人なので混乱によって自分の頭が永遠に狂ってしまうことを防ぐ為に考え事をした。考え事をすることで脳を落ち着かせようとした。それが冒頭に移るわけだ。しかし、アリスも私も結果として行った行動は同じなので、端から見ると二人の間に何ら違いはないのかもしれない。

ところで、アリスは穴を落ちている間、落下中にも関わらずまるで宙に浮いているかのように表現されていた。実はこれと同じことがエレベーターでも言えるのだ。というか、エレベーターはこの原理をヒントに発明されたと言われている。その分にはルイス・キャロルが『不思議の国のアリス』を世に売り出したのがエレベーター開発時よりもずっと以前であることからルイス・キャロルは後年アインシュタインが架空の落下エレベーターを使ってやった思考実験を先取りしていたと言える。科学的なことが何もわからない私でさえも、これが画期的で驚くべきことだというくらいは理解出来る。あなたがエレベーターを利用する際にこのことを思い出してくれたならば、きっとルイス・キャロルも喜ぶのではないだろうか。無論、彼は自分の後世のことなんて知る由もないだろうが、彼が私を知らぬように私だって彼を知らないのだからそこはお互い様ということにしていて欲しい。加えて私は彼がアインシュタインより科学の面で優れているなどは全く思っていないし、寧ろ元からそのようにくだらないことに対して興味もなく、どうでもいいと考えていることをあなたに理解していただきたい。

話が遠回りしてしまった気がする。今は私がアリス(のような立ち位置)なのだから話を先に進めなくてはいけないはずなのだが…穴は一向に終点を迎える気配を見せない。パニックになった脳内も既に沈静化し、私の思考回路は正常に戻ったと言えるだろう。そろそろ現実世界に帰りたいなあとぼんやりと考えていると目が覚めた。どうやら私は眠っていたらしい。今までのことは全て夢だったらしい。なんだそれはと呆れながら、そういえばアリスも夢オチだったことを思い出した。なる程、シナリオに忠実に再現されている訳だ。しかし、何故途中で(しかも序盤の序盤で)終わってしまったのだろう…。

…きっと主人公があまりにもベラベラとどうでもいい事を好き勝手に語るので話が進まず、ルイス・キャロルも嫌になったのではないだろうか?これから登場するであろう、チャシャ猫やハートの女王、その他諸々(正直あまり覚えていない)のキャラクター達には少し、ほんの少しだけ申し訳ない気持ちになったが、それも所詮は夢の世界のことかと思うと直ぐにどうでもよくなった。まずは自分がアリスのように大冒険をすることなく、現実世界に帰ってこれたことを素直に喜びたい。

雑学は知っていて損はない。例えば、あなたが白いウサギに導かれ穴に落ちたときにきっと役立つはずだ。ウサギといえば、あなたはウサギが何故一羽二羽と数えられるのかご存知だろうか?それには深い訳があって─−…‥・




誰も知らない
お喋りアリスのプロローグ



















- ナノ -