先日、原田から僕らのクラスで大流行らしいコミュニティサイトに黒川も参加しているという情報を仕入れ、黒川と交流を図る為、僕も登録した。

黒川は僕の意中の女の子だ。明るく活発でクラスの人気者。学校では緊張して自分から話しかけられない。ネットの世界でならきっと話せるだろう、それをきっかけにして親しくなろうという作戦だ。

「あ、黒川いた」

僕はマウスでアバターを操り黒猫の側へ移動する。原田に黒川のアバターは黒猫だと聞いていた。このサイトは仮想バーチャル空間の町に自分の分身を住ませ、他の住民との交流を図るというものだ。

僕は一人自分の部屋のパソコンの前で叫んで喝を入れると目を瞑って思いきってコンタクトを取った。

『こんにちは』

すぐに『こんにちは!』と返ってくる。

自分が名乗らなければ相手が誰と会話しているのかわからないことに気付き慌てて『あ、オレ、本庄』と打つ。

『本庄君か。よろしくね!』
『う、うん。よろしく』

慣れないタイピングが辿々しいがなんとか会話できる。これは幸先いいぞ。

『…あ、ごめん。これからピアノの習い事だから今日はログアウトするね』
『あ、そうなんだ』

もっと話せるかと思ったが仕方ない。少し話せただけでもヨシとしよう。

『また明日学校でね。たくさんお喋りしようね!』

…それは、現実とネットどっちの意味で?

彼女はドキドキする僕を残してピロリンと軽やかな音をさせ画面上から消えた。


翌日、学校で休み時間に思い切って自分から黒川に声をかける。

「く、黒川のアバターの猫、可愛いな」

すると彼女は首を傾げてこう言った。

「? 私のアバターは羊だよ?」

一瞬思考が停止する。え?昨日僕が会話した相手は黒川じゃない…?え?

情報元の原田にどういうことか問い詰めると「え、オレは女子伝いに聞いたんだけど…おかしいな」と戸惑った返事。どうやら原田が僕に嫌がらせをしたわけではないらしい。

じゃあ、僕が昨日会話した、たくさんお喋りしようと言ってくれたあの子は一体誰なんだ?

苦悩する中、ざわざわと騒がしい休み時間の教室のどこかからクスという小さな笑い声が聞こえた気がした。




















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