激しく自動車が往来する車道の脇に打ち捨てられたかのようにそれは寂しく転がっていた。平日の朝、通勤時間ということもあって道の真ん中に佇むそれは人々の目には映らない。

私もちらりと一瞬目をやり、何事もなかったかのように早々と通り過ぎる。今日は一限が体育の授業でいつにも増して急いでいたのだ。体育教師の先生は生徒に厳しい先生で遅刻したらどんな説教をされるか容易に想像がつく。他人の落し物に気を遣っている時間はない。そんな私の隣を大型トラックが地面を揺らしながら通り過ぎ、巻き上がった土煙がそれを包み込んだ。

「信じられない。ジャージがない…」

私は更衣室で愕然と立ちすくんだ。そんな私の肩に友人が同情するように軽くぽんと手を乗せた。それから私が先生に嫌味小言を散々聞かされたことは言うまでもない。

放課後、帰路に着く中で私は行きの通学路で見かけた落し物を再び目にした。どうやらあれから誰にも拾われていないらしい。私は酷く憔悴しきっているかのように見えるそれに同情し、拾い上げた。紺色で布状のそれはよく見るとうちの学生の体育着に酷似している。おそらくうちの生徒が落としたのだろう。

これがないと、落とし主は困るに違いない。今朝の私のように。仕方ない、面倒だが学校まで戻って生徒指導室まで届けてあげよう。優しいなあ、私は。そういえば体育の先生は生徒指導担当だったな、これを持っていけばもしかしたら少しくらい汚名返上できるかもしれない。

ジャージを広げて被った埃を払った私は胸元に刺繍された名前を見て驚愕した。そこにあったのは紛れもなく私の苗字だったのだ。うちの学校でこの苗字の生徒は私しかいない。

「どうりで見つからないわけだ」

私は羞恥心を含んだ自嘲の笑みを溢して、自らの密かな善意に心の中で拍手を送った。




















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