「怖いんだよ、現実逃避に浸ることが。人々はそれを娯楽と呼ぶけれど、俺にはそれが心を楽しませたり慰めたりしてくれるものとは思えない。余暇が終われば現実に引き戻され、再び苦悶の世界に生きなければならない。現実と逃避の狭間で起こる感覚に耐えられないんだ。辛くて苦しくて、死にそうになる」
「それはしにたい、とおもう」
「そうかもしれない。俺は絶命することで両者の間に存在する深い谷を埋めようとしているのかもしれない。それを望んでいるのかもしれない。でも生きたいんだ。逝きたいと思う一方で生きていたいと思うんだ」
「よくわからない」
「俺もよくわからない。要するに生きるってことは一筋縄じゃいかないってことだ」

我々は苦痛と快楽の狭間に存在する。どちらか一方に属すことはない。あちらこちら、と行ったり来たりを繰り返す。

俺は首を傾げる××の頭にポンと手を乗せた。××は俺がこれ以上説明する気がないことを悟ると再び上を仰いだ。俺も同じように夜空に広がる無数に輝く星達を見つめる。「綺麗」という言葉が陳腐に思えるほど、それらは神々しい光を放っている。星達の光は夜が明ければ太陽にかき消される。そこにあるのに見ることができない。

「ひるまもみえたらいい」

ボソッと呟いた××の目には宇宙が広がっていた。その瞳に映るのは自分だけでいい、俺は年甲斐もなく独占欲を剥き出しにして、強く××の手を握った。

「××は夜が好きなのか」

××は軽く首を振った。意外だと思った。そして、小さく「すき」と言葉にした。いや、実際その声は小さすぎて聞こえなかったが、××の口がそう動いた。
「あなたのつぎに」

相変わらずにこりともしない真顔だった。俺は妙に照れくさくって、視線を逸らした。

「昼見えないってことは夜の楽しみがあるってことだ」

××は目を丸くして驚いた。××が感情を顔に出すのは珍しい。

「なるほど」

そして嬉しそうに俺の肩に頭を乗せた。××は「きれい」と呟いた。俺も綺麗だと思った。

















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