太陽の力を一番強く感じる季節。
陽射しは強く眼を射抜き、音は喧しく周囲に満ちて耳を震わせる。
「見てよアスラン。海が見えてきた」
地球の海なんてもう数えきれない程見てるだろうに、キラは大気圏から降下を始めるシャトルの窓に張り付き、はしゃぎ声をあげた。
真夏の太陽に負けないぐらい目をきらきらと輝かせ、雑誌を読んでいたアスランの服を引っ張る。
「海なんて珍しいものじゃないだろうが」
「何度見ても綺麗だよ。特に今地球は夏だからさ、眩しいぐらい」
キラ越しに窓を覗き込めば、なるほど、確かに海がひときわ光り輝いていた。
空と同様、時間と温度と場所によって姿を変える。今はそれに季節も加わり、鮮やかに存在感を主張している。
「やっぱり外は暑いかな。真夏の地球だし」
「だろうな。この季節に降りるのは正直避けたかったのが本音だ」
「まぁね。でも任務が終わればあとは自由だし。皆で海に行こうよ」
「さんせ〜い」
声がした方を振り向けば、後ろの座席に座っていたディアッカが背凭れに乗り上げ、キラ達を覗き込んでいた。
「夏っていったらやっぱり海だよな」
「だよね。綺麗だもんね」
楽しみだねぇ。早めに計画立てとこうぜ。
きゃっきゃとはしゃぐ二人は、海の魅力に付いて花を咲かせ始める。
ディアッカの隣のイザークが、読んでいたニュースペーパーを畳む音が聞こえ、継いで呆れたような溜め息が。
「お前それ以上焼いてどうするんだ」
「これは地だっつーの!つか泳ぐだけが海の遊び方じゃねーし!」
「さすが遊ぶことに関してだけは頭の回転が早い奴だな」
「何だと?」
イザークの皮肉に憤慨するディアッカを、キラはまあまあと宥めた。
「ごめんね。まずは任務を終わらせてからだよね」
「そういうことだ」
「キラ、着陸準備のランプが点いたぞ。ディアッカも席に着け」
アスランからの一言から間もなく、着陸態勢に入るアナウンスが入り、キラとディアッカも座席に座り直した。
けれどもキラの視線は窓の外に向いたまま、じっと動かなかった。
さっきまでの無邪気な顔じゃなく、目を細めて地平線を見詰めている。
「…何か見えるのか」
アスランの問い掛けに一度振り返るも、小さく笑みを浮かべて首を振る。
「いや…何もないね」
「なら、見ているのが楽しいのか?」
「うん。綺麗だし、地球に来たって気がするからさ」
なるほどな。
アスランには何となく理解できた。
キラは、地球が好きなのだ。
重力があり、天候があり、季節のある、宇宙で唯一つの青い星が。
「皆で見たこの海がさ、僕達にとっての夏になってくんだよね」
楽しみだね。
そう言って笑うキラにつられるように、アスランもまた表情を緩めて、ああ、と頷いた。