放課後になり、シンはレイと共に改めて屋上にやってきた。

その頃には雨はすっかりあがっていた。
空気はひんやりと澄み渡って、土の匂いが強く辺りに満ちている。


「もしかして、シンは晴れ男?」
「なんですかそれ。んなこと言われたの初めてです」
「なんかイメージ的に。シンとレイが並ぶと、特によく晴れる気がする」

その元気の良さ(…いつも大声出してばかりで血管が切れないのかと時々思う…)と、女子達に騒がれる綺麗な金の髪を見ていると、初夏の青天を思い出す。

そう、ちょうど今の季節のような。

二人はよく分からないという表情をして、互いに顔を見合わせている。

「ま、ありがたいってことだよ。二人にお願いしてみて、効果があったんじゃないかな」

ちゃんと大陽を持ってきてくれたしね。
例え偶然なんだとしても、晴れを呼び寄せる才能があるんじゃないかと本気で思ってしまう。

「俺は特に何もしてないし…。……晴れろっていう念とか…少し送ったぐらいで…」
「んん??」
「ああ、あれはそういう意味だったのか。何の呪いを送ってるのかと思ったら」

レイが何かに納得したような声を上げた。
シンのハッとしたような顔も見えた。

「どういう意味?」
「いやべつに、」
「窓の向こうをひたすら睨んでたんです。俺は廊下でしか見てませんが、その調子なら教室にいる間もずっとそうだったんじゃないですか」

ちら、と伺ったレイの目に続いて、キラもまたちら、とシンを見たら、当人は平行するようにサッと視線を逸らした。

「………」

何となく、想像が付いた。
机に頬杖を付きながら、親の仇を見るように空を睨み付けていたに違いない。
心で上げる声は唸り声だろうか。

シン曰く、念を送っていたらしいが…。

「ぶっ」
「なっ」

堪えきれずに吹き出してしまった。
肩が震えるのが止まらない。
レイを見れば、彼もまた目を逸らして口に手を当て、微かに笑いを堪えていた。

「〜〜〜っ!」
「そうだよね。天気は人には変えられないもんね。そうするしかないよね」
「だからと言って念を送るとか…」
「うるさいうるさい!!笑うんならもっとはっきり笑え!!」

羞恥で沸騰した顔に怒りの朱も混ざり、完全に茹でダコ状態だ。本物の湯気まで見えてきそうだった。

「でもまぁ、スゴいんじゃない?…シンの念とやらはさ。ちゃんと届いたみたいだよ」

笑いの波を漸く治め、目尻の涙を拭い、キラはシンの宥めに入った。

人の祈りってヤツは、凄いんだなぁ。
てるてる坊主への願掛けみたいなそれに、天を変える力があるらしい。キラは満足だった。

すると、不機嫌そうな顔そのままで、シンが、「ん!」と何かを突き付けてきた。

「一応コレも!」

押し付けるようにキラの前に出されたのは、ラッピング済みの箱だった。

「これ…プレゼントってヤツ?」
「気に入るか分かんないけど!」

へー…いつの間に…。
昼休みに知って、この放課後までにはあまり時間なんかなかっただろうにね。

「先輩の誕生日だと聞いて走り回ったようです」
「わー!余計なこと言うな!!」
「もしかして、授業サボった?」

綺麗にラッピングされたそれを見れば分かる。
ぎゅっと手のひらに包まれたそれを握りしめ、

「じゃあ、そのお詫びに今度、勉強でも見てあげるよ。レイには…」
「俺は別にプレゼントも何も用意してません」
「シンのフォロー、してくれたんでしょ?」

じゃなきゃ授業が終わってすぐ、こうして二人揃ってやって来ることなんて出来た筈がない。
授業を抜け出した罰に、今頃は説教地獄か放課後居残りコースだ。

「………」
「ね。勉強ぐらいは見てあげられるし…、それとも他に何かやって欲しいことある?」

レイは緩く首を振った。

「生徒会の作業を手伝ってくれれば、それで」

勉強はシンに専属でついてあげて下さい、なんて続いた。まぁそうだよね。レイには必要ないよね。

言われたシンは、あのさ、と小さく呟き、おわびに…じゃなくて、と何かをもごもごとさせ、

「お礼にって言って下さいよ」
「お?…よし。じゃあ今度、シンにたーっぷりとお礼参りをしてあげる」
「意味違うし!その言い方だともっと怖いんだけど!」
「なら結局お前は何がいいんだ。…贅沢だな」
「だよねぇ?…天の邪鬼はシンの専売特許だもんねぇ」
「はぁ!?意味分かんねーし!!」
「じゃあ……ツンデレ?」
「ちげーし!!」


雫が新緑に緑の宝石を作る。
雨の落とし物。あるいは忘れ物。人が欲しがる翡翠石よりも尚、透き通って美しい。

やがてするりと落ちて、ポタンと水溜まりに輪を描く。
揺れる水面に映るのは雨上がりの空。白い雲。溌剌とした花。

明るい陽射しと青空が似合う花。
雨が降り始める季節に咲き始め、雨が去った季節に盛りを終える。
葉は、太陽に向かって伸びていく。


仰ぎ見た陽に向かい、少年達は佇む。


「これなら、明日もいい天気になりそうだね。…それに、いい季節にもなってくれそう」


だといいですけどね、と素直じゃない態度で目を合わせようとしない後輩と。
先輩にとって駄目な季節なんかあるんですか、と真面目なんだか皮肉なんだか分からない後輩に挟まれて。

キラは笑いながら、大きく伸びをした。


遠くで聞こえ始めたチャイムに、珍しく愛おしさを感じて聞き入りながら。





... close eyes




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