open eyes ...





「………あつい」

目覚めた瞬間のキラの第一声は、それだった。
素直な感想だった。

背中に人の気配。
肩越しに振り返れば、そこにはディアッカがいた。逆側に顔を向けて隣で寝息をたてている。

「………」

芝生に寝転んで、気持ち良いランチ後の一時を微睡んでいたのに、起こされた理由はソレ。

寝起き直後の働かない頭で、キラはべしっと友人の頭を叩いた。完全な八つ当たりだった。





「せっかく気持ちよく寝てたのに…」
「それはこっちのセリフだっつーの」
「ディアッカの背中、体温高過ぎ。頭も大陽なら体温も大陽並みなの?」
「言ってる意味が分かんねぇ」

まだ寝惚けてんのかと言われて、眠いよまだ、と不機嫌に返した。

「なんでディアッカまで一緒になって寝てるんだか…」
「お前が寝てるの見て俺も眠くなったんだよ」

くわぁと欠伸をして頭を掻くディアッカに、キラもまたつられて眠気を噛み殺す。
欠伸が伝染するというのは本当らしい。

「キラの寝顔って猫みたいだよな」
「それはこっちのセリフだって、今度は僕の方が言いたい」

ふさふさ毛並みの気紛れ猫が、麗らかな午後に日向ぼっこをしてる映像が浮かんだ。

それから、木陰を作ってくれている枝葉。
今頭上にかかるその青々とした葉に、重なるものがある。

「これからはディアッカの季節だね」
「どういう意味?」

俺の時代とかそういう感じ?
どんな時でも冗談で返してくる口の上手さは褒めてもいい。呆れた顔になりながらも思わず笑ってしまった。

「ちがう。うっとうしいぐらいの暑い陽射しの季節になるって意味」
「あ、そ…」

実はお前俺のこと嫌いだろ、とぼやいている。
まぁ時と場合とテンション次第だね、と返しておいた。

「てか今月…いや今日はお前の日だろ、キラ」
「…?」
「5月18日。お前が生まれた日。つまりはお前の誕生日」

ぴっと掌を見せるように指を突きつけてきた。
キラは目をぱちくりさせる。

「そうそう。それでお前を探してたんだった。…なんか欲しいもんとかあるか?」

して欲しいことでもいいけど。胡座をかいた膝に頬杖をついて、こちらを覗き込んでくる。

「………、……ディアッカが、ケーキでも用意してくれるって?」
「そんなんでいいのか?」

キラは、思わず笑ってしまっている自分に気付いた。恥ずかしいような、素直になれないような、でも口元は緩んでしまう。昼過ぎの木洩れ陽に、長く当たりすぎたかな。

けどやっぱりディアッカを前にすると軽口を叩きたくなってしまうのも、もう仕方のないこと。拗ねた素振りもいつもの流れ。

「いいです。何もしてくれなくていいですー。僕の昼寝の時間を潰さないでいてくれてたら、もっと良かったんですけどね?」
「いつまで根に持ってんだよ…」

食い物の恨み、ならぬ、睡眠の恨み。
連日まともな睡眠の取れない業務中にあって、さっきの昼寝は貴重な休息時間でもあったんだから。

「あー、もう悪かったって。お前のワガママの一つくらいは聞いてやるから、それでチャラにしろよ」

キラは、少しだけ考えた。ぶちぶちとからかうのもストレス解消になって楽しいのだが、そう言うのならもっと困った顔をさせてやる。

「そうですか。何でも叶えてくれるんですか。なら僕は大陽と月と空と雲と雨が見たいです」
「……同時に?」
「同時に」

あり得ねぇ…!とディアッカは頭を抱える。
べ、とキラは心の中で舌を出してやった。

しかしディアッカはめげなかった。
ハッと何かに気付いたように顔を上げ、途端、閃いたと言わんばかりにニヤと笑う。

「オッケー分かった!見せてやるよ!俺の名にかけて!」
「ディアッカの名前にかけたらますます不可能じゃん」

いちいちウルサイと小突かれる。

「その前に休みを貰ってこないとダメだな」
「…それは休暇申請って意味で?」
「とーぜん」
「いいよ!それならワザワザ見せてくれなくてもいい!」

そんな私的な用件で、まして気紛れのような突然の休暇なんて、自己中発言の何者でもない。

なんだよー、と膨れるディアッカに、あほか!と言ってやりたい。行動力の使い処が間違っている。

「イザークなら許してくれるって」
「イザークだから許してくれないでしょうが」
「ダメ元で言ってみりゃいいだろ。行くぞ」
「あ!」

だから、その積極性を別の処に生かせ、と。
既に離れた背中には、届く筈もなかった。









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