open eyes ...
いつもと変わらない一日の朝、リビングにやって来たキラはカーテンを開けた。
ふと、連絡手段の通信画面に目をやれば、留守番メッセージが一件入っているのに気付く。
ピカピカと緑のランプが点滅している。
「…あれ…、…カガリ…?」
こんな時間に連絡を入れてくるのは珍しい。
不思議に思いつつ、再生のスイッチを押した。
画面に、正装姿のカガリが映る。
背後は…更に珍しい、執務室の大きな窓。政務中かと思われる格好と場所に、キラはますます首を傾げた。
『おはよう、キラ!…早い時間に悪いな』
自分が起きる一時間ほど前に、留守番機能に記録を残す形で残された映像付きのメッセージ。
遅く起きたつもりはないが、こちらを配慮して呼び掛けなかったようだ。
『本当なら直接言いたかったんだが、今日一日公務が入ってしまったんで、メッセージだけを残そうと思う』
片手を口にあて、こほん、と軽く咳払い。
『誕生日おめでとう、キラ』
まるで真正面に座ってこちらの眼を見詰めるように、カガリはからっと笑った。
「カガリ…」
キラは一瞬驚き、やがて口元に弧を描いた。
最近はメディア越しに気難しい顔だけを見ていたから、彼女のその笑みは久しぶりに思えた。
今日は、双子の片割れの生まれた日でもある。
自分の誕生日であり、彼女の誕生日。
当たり前なのに、それが嬉しい。
誰かに祝われる立場と、誰かを祝う気持ちを、同時に味わえるのだ。笑みが深くなった。
『私たちも今日でまた一つ歳を取ったな。見た目は全く変わっていないと周りからは言われるが、お前の方はどうなんだろうな?…やっぱり血筋か?』
何年経っても互いのコンプレックスは変わらないね。他人に言われたら、それは誉め言葉どころか不機嫌になりかねない言動だ。似た顔を持つ姉に言われるからこそ許してしまう台詞。
『プレゼントは今日の昼間にでも届くと思う。…お前からのプレゼントも期待してる』
贈ったよ。沢山の花束と一緒にね。
彼女が引き立つ、黄色と水色の花だった。
普段は花なんか似合わないと顔を背ける君だけど、今日ぐらいは花が似合う笑顔で笑っていて欲しい。
『…あ〜…、私としては、お前直接会いに来てくれる方が嬉しいんだが…』
それがプレゼントになるっていうか…、などともごもご呟き、目線が忙しなく動く。
彼女が照れている時の癖だ。笑ってしまう。
互いにハグが出来る距離は、随分と離れてしまった。時間も経った。なかなか会えずに残念に思うことにももう慣れてしまったけれど。
『カガリ様。そろそろお時間に…』
『分かっている!』
画面の外に叫んだ後、カガリはもう一度こちらへと目を向ける。
「ええと…とにかく」と改め直し、
『おめでとう。お互い良い日になるといいな。私も地球から、キラの幸運と幸福を祈ってる』
またな、という言葉を最後に、メッセージは終了した。
キラは、ぱちりと画面の電源を落とした後、静かにソファから立ち上がった。
部屋の窓を開ける。ふわりと風が舞う。
…―――若木が薫る。
眩しい陽射しに目を細めた。
大陽だけではなくて、外の緑の葉がゆらゆらと宝石のように光を揺らしている。
「誕生日おめでとう、カガリ。僕も、君の幸福を願ってるよ」
生命に溢れた青葉は、片割れの姿そのものだ。
馳せた祈りが、そこへ届くように。
水色の空を遠く見上げる。
そうして、清々しい空気に向けて深呼吸をするために。