青空と陽射しが優しい、南部屋のテラス。
ウッドデッキには一揃いのテーブルとチェア。

そこに座りながら、キラはペンを握っていた。

テーブル上には愛用のノートパソコン。
しかし今回は、それの出番は無さそうだった。



「えー…と…」

多くがデジタル化されて、パソコン一つで全てを送受信出来る時代。近況報告なんて、毎日のようにメールでしていたけれど。

…たまにはこういうのも…いいよね。


そう思い立って書き始めたのは…―――手紙。


春色の便箋を前にして、ペンを握りながら何を書こうかと肘を付く。手の中のペンをゆらゆら揺らしながら。…それがとても幸福なことのように思えて、キラはくすぐったく微笑んだ。

「…よし」

したためた文字を何度も見返して、最後に便箋を折り畳む。端がずれないように。皺が付かないように。慎重に。

何の特別もない日常の報告と、これからの小さな予定を幾つか。そちらはどう?というお伺い。いつもしている近況報告と変わらない。

なのにどうして、手書きにするとこんなにも、どきどきするのだろう。
…―――相手がこの手紙を読んで、笑ってくれる風景を思い浮かべてしまうんだろう。

「あ…、どうせなら…」

キラは一度、室内に入っていった。





「何してるんだ?」

振り返った先にいたのは、二人分のカップを手にしたアスラン。
テラスの手摺から身を乗り出しているキラを見付け、カップの一つをテーブルに置いて歩み寄ってくる。

キラは、手の中の小さなカメラを示した。

「ここから見える景色の写真撮り」
「そんなの、どうするんだ」
「ラクスたちに送ろうと思って」

アスランは首を傾げた。改まってそれをしようとする意味が分からないらしい。

「現状報告に…メールに添付でもするのか?」
「いや。印刷して、ちゃんとした写真にして、手紙に同封するんだ」

「手紙…?」と、久しぶりに聞いたレトロな単語を、アスランは不思議そうになぞった。

「街中で綺麗な便箋と封筒を見つけて…思わず買っちゃったんだ」
「……ああ…、あれか」

テラスのテーブルの上にあったレターセットを見付けて、アスランは納得の息を付いた。

「ああいうのを見ると、誰かに手紙を書いてみたくなるから不思議だよね」
「それで、ラクス宛てにか」
「せっかくだから、写真も添えてみようかなって思って」

僕達が今見ている…文字だけでは伝え切れそうにない目の前の風景とか。時にそれは、どんな言葉達よりも雄弁に何かを語ってくれる。

そうしてそれを見た相手は、何を思ってくれるだろうか。そう思うこともまた、楽しみだ。

「なら、とっておきの一枚があるだろ」

プリントして持ってきてやる、と言って部屋を出ていき、再び戻ってきたアスランがその手の中に持っていたのは。

「…っ、…はは…!…そんなのいつの間に撮ってたの…!」
「周りの女性陣達が、無造作に撮っていた一枚だな。なかなかに傑作だろ?」
「シンにとっては不運まっただなかの瞬間だけどね」
「俺とキラ、三人で写っている貴重な一枚だ」

ああ。なら手紙に付け足さなければ。
この写真を撮った時の一部始終を。

「なんて書こうかな…呆れられないかな?」
「イザーク辺りはそうなるかもな。ディアッカは爆笑。ラクスは…天然な感想を呟いて、いつも通りに笑うんだろう」
「あ〜…なんとなく想像できる」

楽しげないつもの日常のワンシーンを、彼女達に送ろう。
そうして向こうも、笑ってくれればいい。
目にした景色を共有し、思い描き、それぞれの気持ちで、自分達を思い出してくれればいい。


「よし!送る準備完了!」



それは、【DEAR】で始まるメッセージ。



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