「アスラン!早く!」
息を切らしたままこちらを急かすキラに、アスランは一つ嘆息する。キラの頬が赤いのは、息切れのせいだけではなく…。
子供か、と思いはするが、呆れるのではなく、微笑ましい気分に近いものがあった。
キラの思い付きに付き合っている時点で、自分もまた楽しみにしていることに変わりはない。
目的のものがこの階段を上った先にあるから。
期待に瞳までも輝かせているのが分かるから。
「間に合った…!」
キラの安堵の声。
はぁ、と呼吸を整え、思いきり息を吸うように顔を上げた先に広がった景色。
白い光の夜明け―――。
「この星の、夜明けだ」
平地の白い建築物の上を、滑るように渡っていく一日の―――日々の始まりの光。
眩しい程のそれは、朝を包んで膨れ上がる。
キラから遅れること数秒後。
親友の肩越しに見えた景色に、アスランは疲れ以外の思いを込めて、吐息を付いた。
感動という名の、溜め息。
「やっぱり夜明けは、どこで見ても綺麗だね」
屋上の手摺を握り締め、眩しそうに眼を眇めたキラは、満足げな表情をしていた。
目的の一つを果たしたと。
「ここで幾つ目だった?」
「んー…五つ目…?」
「よく飽きないな」
「飽きないよ」
色んな場所で、色んな夜明けを見てみたい。
そうして渡り歩いた星と星。
プラントから始まり、軍事衛星、資源衛星…、果ては哨戒艦の中から、ということもあった。勿論、月にも渡って記憶の場所を辿ったりもしながら。
景色の形は千差万別。
人が朝陽を、何処か厳粛な気持ちで見詰めるように。時に遠くて、時に身近に感じるように。
決して見飽きることのない、始まりの風景。
「さ、次は本番、地球に降りようか」
「本番ってなんだ…」
「地平線から見える陽射しも綺麗だけど、水平線から昇る朝陽はもっと綺麗だと思うよ」
沢山の暁を目指して。
鮮やかに地を染める始まりの色を見上げて。
二人は、そうして夜明けを追い掛け続ける。
旅はまだ、終わらない。