「ラクス…貴女はまた何を…」
「だって、こんなにも愛らしくて綺麗な方は、見たことありませんもの」

彼女らしい、見えないものを見る眼に何かが映ったのだろうか。
確かにさっきの光景は、現実にはない風景を見せられた心地だった。…その渦中にいた少年。

しかし、アスラン以上に虚を突かれた表情していたのは、少年の方だった。

「なんで…?…君には、分かるの…?」
「もしかして、当たっていましたか?」
「うん」

アスランと少年、二人揃って眼を瞬かせる。
ラクスだけが、ふんわりと笑っていた。

「『天使』…?」

なんの冗談だ、とアスランが口にしかけた瞬間だった。

…―――再び、少年の周りに光が集束した。

白で覆われる眩しさで目を細めた次には―――目の前に自分らと同じくらいの年齢の少年が佇んでいた。
…子供ではないが、幼い顔立ちはやはり、少年と形容できる姿だったけれど。

「まぁ…それが貴方の本当のお姿ですか?」
「うん。バレたんなら、もう合わせとく必要はないしね」

目線が同じ方が話しやすいし、なんて言いながら、一つ伸びをした。

「私、天使様には生まれて初めてお会いしましたわ」
「ま、普通は一生会わないからね〜。あの世を渡りかけたら会えるらしいけど」

無邪気な顔してシュールな発言をしている自称天使に、ラクスだけがいつもと変わらない笑みで嬉しそうに話し掛けていた。

「それも今夜会うことができたなんて…聖なる夜の奇跡ですわね」

現実は現実。信じられないというには、目の前で起きた―――しかもこの目でしかと見てしまった―――光景はあまりにリアル過ぎた。

ラクスの言った通り、今日が特別な夜だからだろうか。だから、有り得ない光景すらも現実に感じてくるのだろうか。

「今日は僕がいても違和感のない日なのかな?…まぁそれも好都合なんだけどさ」

加えて、この『天使』は酷く人間くさかった。それが夢と現実の境界線を曖昧にしているように、アスランには思えた。

「貴方のお名前を、教えて頂けますか?」
「…キラ」
「ありがとうございます、キラ。私の名前は、ラクスと申します。こちらはアスラン」

少年―――キラの視線が、アスランに向いた。

薄暗い庭に立つ微かな外灯の明かりが、キラの瞳に映る。灰色に近い菫色の眼差し。
…不思議な懐かしさを、呼び起こす。

「アスラン…て言ったっけ…君」
「あ、ああ…」
「肩のその鳥は…鳥の形の人工物は、君が造ったの?」
「…そうだ」
「へぇ…凄いね。ちゃんと、命が宿ってる」

感心したように言われた言葉に、アスランは目を丸くした。

命が…宿っている…?

なんだか…不思議な気持ちになった。嬉しいのか、誇らしいのか。何とも表現のし難い感情。
『人間』じゃない者に言われたからだろうか。それとも、キラが柔らかく笑ったからだろうか。不思議な温かさを感じた。

「とても小さいけど、そのコにも確かに光がある。…ここは本当に光に溢れている場所だね」
「ひかり?」

見回した辺りには、溢れていると形容できる程の明かりはない。足元を照らす常夜灯と、屋敷内から零れる微かなライトだけだ。

「こんなに暗いのに?」
「あるよ。沢山の光がさ」

キラは、嬉しそうに笑った。


「だから僕は、ここに来たんだ」





 






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