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「キラ…、その腕輪、光ってるのか?」
「喜んでるんだよ。このコもね」
まるで生命が宿っているかのように、キラは言う。さっきトリィに向けた眼差しと、同様に。
「それは…まるで天使の羽根のように真っ白ですのね」
「そう言えば、お前に翼はないんだな」
「…また…、やっぱりソレ、気になるの?」
おんなじことを聞くんだね、とうんざりしたように溜め息を付くキラ。
「当然じゃないのか?…自分が天使だって言うなら、普通気になるもんだぞ」
「あら。キラならば、私はこのままでも天使だと信じますわ」
「…ラクスなら、そうかもな…」
人とずれて…いや、違う感性を持つ彼女なら、そうなのだろうな。今更突っ込む気はない。
「ですが、本当に天使の羽根をお持ちなら、ぜひ見てみたいと思います」
「……そんな、大したもんじゃないよ?」
にこにこにこにこ。
避けようとするキラに、ラクスは満面の笑みで微笑む。
その期待に押されたのか、もしくは笑顔そのものに圧されたのか、キラは再び溜め息を付き、
「まぁ、いいや。ここは外だし、他には人目もないし」
君たちだけに、特別だよ?
沢山の『光』を生み、育て、慈しみ…見守り続けてくれた君たちに。その…お礼に。
キラが緩やかに左腕を持ち上げる。
トリィが夜空に飛び立った。
腕輪が淡く輝き始め…はらりとほどけた。
まるで羽根が巻き付いていたかのようだったそれは、淡い光の中で形を変え―――。
光を纏う―――純白の鳥となった。
顔の見えない、真っ白いばかりの輪郭。柔らかな光の集合体のように判然としない姿でありながら、大きく空を掻く翼だけは鮮やかな。
バサッ…と翼を広げた光の鳥から、欠片のように燐光がはらはらと散る。
ふわりと浮かび上がった風にキラのシャツの裾が揺れ…、持ち上げられた左腕へと鳥は静かに舞い降りた。
「このコは僕の翼。彼がいるから、翼がなくても僕は空を飛べる。どこへでも自由に行ける」
擦り寄るように頬にその身を寄せた光の鳥を優しく撫でて、キラは瞳を閉じた。
それが彼の本当の―――天使の姿。
「それが…貴方の翼…。…とても綺麗な羽根ですね」
「ありがとう」
心から嬉しそうに…静かに微笑む菫色の瞳。
そう―――例え少年がその身に羽根を持たない天使でも、思うまま自由に空を飛べるのだと…そう思える美しい『白い翼』が、彼にはあったのだ。
「このコは僕の半身みたいなものなんだ」
切れない縁で傍に在る、少年の片翼。
純粋で自由な感情と、沢山の場所に翔けていきたいと望む好奇心を持つ天使。そんな彼には、とても相応しい白くて美しい翼だ。
「今まで想像した天使像の中で、一番お前に似合ってる気がする」
「…?…どういうこと??」
アスランは忍び笑った。
「中に羽根をくっつけて空を飛んでるよりも、地面の上を好きに歩き回りながら、時々気紛れで見えない羽を広げて飛んでいく。その方が余程お前らしい」
「それ、馬鹿にしてる?」
「普段は自分一人じゃ飛べなくて、俺たちと同じ二本足で歩いてる。イメージ通りで、似合いすぎるぐらいだろ」
「む」
不機嫌そうにむくれたキラの頭に、いつの間にか戻って来ていたトリィが、ぽす、と乗っかった。アスランはますます笑いを堪えた。
「このコは僕といつも一緒にいるから、問題ないの。いつだって好きに飛べるんだから!」
むきになるところも、やはり実に人間らしい。
アスランは笑みを隠せなかった。そしてまた噛み付いてくる。
そんな二人に、ラクスがそっと呟いた。
「ならばキラは…ひとりではないのですね」
ラクスは、優しく眼を細めた。
「その翼がある限り、寂しくはないのですね」
キラは不思議そうに首を傾げたが、アスランにはなんとなく理解出来た。
悠久の大地を駆ける天使の気持ちなど、推し測れるものではないのだろうけれど。
「僕は寂しくなんかないよ?」
強がりなんかではなく、本当の気持ちでキラは呟く。
「キラがそう思っているのなら、私たちは満足です」
「…?…変なの」
「こんな夜ぐらいは、お前にも幸福を感じてて欲しいってことだ」
「それは…、…うん。……楽しかったよ」
照れたようにはにかんで、キラはそっと笑った。
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