「…とにかく、アンタの所属部署は」

ここにいる以上は、ザフトの兵士だ。
それぐらいなら答えられるだろ、と思った問いだったのだが。

「どこの部署って言われても…」

んー、とそいつは唸った結果、

「採集課? 上司にこき使われる天使がいっぱいいるところ」

あ、上司ってのは君たちがよく言うところの、かみさま?…になるのかな?

「………」
「………」
「そうだな…君らの言う所属や部署の意味は分からないけど、僕にはキラって名前があるよ」

それだけじゃあ、僕を示す証にならない?
二人を置き去りにしたまま、その人物は勝手に名を名乗った。

「『キラ』…とか言われても…」

そんな名前の隊長、いただろうか…?
シンは考え込み、その名を復唱した。
すると名前を呼ばれたことが余程嬉しかったのか、満面の笑みでそいつは応えてきた。

「うん。天界の仕事人、キラ・ヤマトです!」
「………」
「………」
「あれー…?」
「………」
「………、……さっき、天使って言いましたね」

超現実主義者のレイが遠い目をし始めている。
達観と葛藤の狭間で導き出した答えは、すなわち、

「俺達に何の用ですか?…早く部屋に戻りたいのですが」

とっとと話を終わらせて無かったことにしようという判断だった。
うん。俺も大いに同意したい。

ところが、やっと聞いてくれました、とばかりにキラの瞳がぱっと輝いた。くすんだ菫色が、濃い紫の虹彩を放つ。

「聞いてくれるの?」

キラは、伝えたくて仕方がなかったと全身で表すように笑った。

「あのね、……僕はさ」

一度目を閉じ―――、


「君たちに笑って欲しくてここに来たんだよ」


思わず目を瞠ってしまうような、厳かな変化だった。

大きく輝いていた瞳は優しく細められ。
濶達な笑顔は、優しい微笑みへと緩やかに混ざりながら、シンとレイを包んでいった。

無邪気な子供から、静謐な大人へと纏う色を変えていくような……昼間の大陽が、夜の月へと変わっていくような、色彩のグラデーションを経た穏やかな変化だった。

しかし変わらないのは、その空気の温かさ。

「最初…ここだけなんだか寂しげで、ぽっかり穴が空いているように見えたんだ。光の届かない隅っこ、みたいな」

そう言葉にするキラの方こそが、弱々しい気配で肩を竦めた。

「外はどこもイルミネーションの光の洪水で、誰もがみんな幸せそうに笑ってるのに…さ」

ここだけ、今の季節と同じ温度の肌寒さを感じて、思わずお節介したくなってしまったんだ。

「………そんなの、見えんのかよ…」
「うん。僕は、人間じゃないもの」

さっきまでは、その現実に噛み合わない態度や言い回し、主張に、馬鹿にした気分しか感じられなかったのに。今のその台詞は、ああやっぱりそうなのかと…本当なのかと、認めざるを得ない言霊が宿っていた。

目の前で見せられた、あの空気の変化もそれを助長した。

「二人の気持ちはどん底ってほど落ち込んでるわけじゃないけど、辺りの気配に馴染めないような冷えた色をしているよ」

じ、と眼を覗き込んでくる。
シンは、思わず視線を逸らした。

確かに、妙に冷めている自覚はあったけど。
周りほど、この季節に奇跡も温もりも求めちゃいない。…だって、部屋に戻れば空気は冷えていて、しん…と静まり返った空間が自分を迎えるだけ。

顔を上げられないままのシンの代わりに、レイが少々感情の籠った声で問い掛けた。

「それは、貴方の自己満足でしょう。そのために、俺たちに声をかけたんですか?」

キラは、苦笑いのように口を引き結び、

「うん…そうだね…、そうなっちゃうのかな。…でも、それも僕たちの役目だから」
「役目…ですか…?」

うん、と頷いてから、己の『役割』を告げた。


「生命の光を集めること。それが、僕の役目」





 






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