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そこは、賑やかで目映い―――至上の光に満ちた場所だった。
屋敷のリビングには、楽しげな音が詰まっていた。
鮮やかに明滅するツリー。
それを傍らにはしゃぐ子供達。
色とりどりの豪華なディナーに、ほどかれ色の洪水のように散らばるプレゼントのリボン達。
アスランは、その風景に瞳をなごませながら部屋を出た。
扉一枚を挟んで、音と声が弱くなる。
それに反応してか、肩に乗るトリィが一声鳴いて首を傾げた。
そのまま中庭に向かいかけた背中へと、
「もうお休みになりますか、アスラン」
屋敷の主がそっと声を掛けてきた。
今日の彼女は大衆に向けた歌姫というよりも、一緒に賑やかさを共有する子供達の家族としての姿だった。髪を一つに結んで、動きやすい衣服に身を包んでいる。
「いや。少し外の空気を吸ってくるだけだ」
「なら、私もお供致しますわ」
「ラクスもさすがに疲れたか?」
「その分、楽しかったということですから。沢山笑った証拠ですわね」
笑顔に陰りはない。
アスランも穏やかに笑って、中庭への道を二人で歩き出した。
「…?…庭に何か…」
アスランは、呟いた。テラスに向かう回廊の先にふと、仄かに灯る明かりが見える。
「何かが…光っていますか…?」
ラクスと顔を見合わせる。
ガラス張りの壁面に透かし見えた夜の庭に、不思議な光がぽつぽつ灯っていた。
広い屋敷の庭園に降り立った二人は、思わず立ち尽くした。
…―――――大地に、星空が咲いていた。
光の軌跡が、夜の風の中に舞う。
それは、夏の蛍火のようであり、幽玄の魂の光が自由に大地を遊んでいるようにも見えた。
風に飛んでいく綿毛が光を纏うように、ゆらゆらと視界をよぎって時折頬を掠める。その光の粒は、何故か温もりがある気さえした。
眩しさに目を眇めれば…。
その幻想的な光景の中心に小さな影が見えた。
「子供…?」
アスランは呟く。
風に流されて行くように徐々に散っていく光。
その只中に、一人の子供がいた。
持ち上げた右手のひら、その掌中を見詰めるように微かに俯いて。風に吹かれて、そのシャツが、その髪が、柔らかく風にはためく。
子供が光を呼び寄せているのか、光が子供の元に集まってくるのか。包むように浮かぶ光達。
ただ、優しい色達がその子を取り囲んでいた。
立ち尽くす二人の前で、子供は夜空を仰いだ。
光が月へと昇っていく姿を見送るように。
そうしてやがて、風に浚われるようにして全ての光は薄れ、消えていった。
元の…風が吹くだけの夜の庭に辺りは戻る。
耳をくすぐる草花の揺れる音だけが届いた。
アスランは、一歩、草地を踏んだ。
子供の横顔が、こちらをゆっくりと振り返る。
無表情に近い、感情の欠片もない顔が、まるで人ではない空気を感じさせた。
酷く幼い、丸みを帯びた面差し。
冬の夜には寒々しい白一色の背格好。
ただその瞳だけが、澱みのない澄んだ光を称えてこちらを見ていた。
やがてその子供…少年は、にこ、と小さく笑みを形作った。
「こんばんは」
囁きと共に、急速に『人間』らしくなった姿。
その笑顔はとても年相応で、無邪気だった。
自分達に近しいものになる。
なんと会話していいのか戸惑うアスランの横から、ラクスが返した。
「こんばんは。良い夜ですわね」
「うん。綺麗なものが、沢山見える夜だね」
にこにこと機嫌良く笑う姿は、プレゼントを手にして満面笑顔ではしゃぐ屋敷の子供達と変わらなかった。
「貴方も、とても綺麗な眼をしていますね」
こんな非日常の光景を見せられても、ラクスはいつも通りの穏やかさを崩さない。…なんというか…動じない人間だ。
「貴方は屋敷にいる子たちのご兄弟ですか?」
そんなわけないと思いつつ、アスランはラクスと少年の会話を見詰めた。
「きょうだい?」
「こんなに可愛い男の子に似た子は、いなかったと思いますが…」
「おとこのこ…?」
不思議そうに、紫の眼が瞬く。
「君は…もしかして女の子なのか…?」
アスランの第一声は、
「はぁ?」
幾分不機嫌そうな声と眼差しに睨まれて、立ち消えた。その目付きは、年齢にそぐわない鋭さがあった。
「…悪い。小さな子供は皆、中性的に見えるものだから…」
「子供…?」
思わず謝ってしまったアスランだったが、少年が反応したのはそこではなかった。
「ああ、君らには僕が子供に見えるんだ」
少年は大きな瞳を瞬いていたけれど、なるほどと頷いているようにも見えた。それは、不思議な呟きだった。
「どういう…意味だ?…君は、子供じゃないのか?」
「うん。服装を変えるたびにいちいち突っ込まれるのが面倒くさいから、相手の視覚に合わせることにしたんだ」
だから、君らには僕が子供に見えてるんだよ。
不可思議な言動…を通り越して、最早会話が噛み合わない。答えになっていない。
「貴方は、もしかして天使なのでしょうか?」
綺麗に微笑みながらラクスが発した一言に、アスランは面食らった。
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