冬が嫌いなわけでは、ないけれど―――。










「あ、おつかれ」
「ああ」
「そこに座れば?」

フリールームの食堂で、シンとレイは向かい合って遅めの夕食を取り始めた。

いつもは人で賑わう場所も、最近は人もまばらで数が少ない。今この時期、ここで働く人々はぽつぽつと自分の寮を出て、実家やら生家に帰省していた。勿論、有事の備えで空にはならないけれど。

残っているのは、責任感が強い人間か、特に帰る場所のない人々。
……シンとレイの場合は、後者だった。

時期も時期だから、これからの予定を既に埋めている人達も多く、何処かそわそわと落ち着きがない空気が漂っていた昼間。二人の遅い夜ごはんも、そんな彼らの作業を自分から請け負った結果だった。
どうせ予定など無いのだから、時間を惜しむ彼らの代理をすることに抵抗は無かった。


「何か予定を入れてたんじゃなかったのか」
「ん?…ああ。誘われてはいたけど断った。あいつらには悪いけどさ、皆で騒ぐとかそういう気分じゃなかったし…」

シンの中では、クリスマスは家族で過ごすものという感覚があった。歳を重ねれば変わるものもあるのだろうが、記憶にある冬の思い出は全て家族との時間に埋め尽くされていた。だからなんとなく友人だけでのパーティーに参加する気も起きず、断った。

「そうか」
「ん」

静かに頷くだけのレイもまた、この時期を特別なものに捉えることなくいつもと変わらない一日を過ごすのだろう。彼の生家や、この季節の馴染みの過ごし方を聞いたことはないが、人の多い処でワイワイするイメージもない。

それ以上はその話題に触れることもなく、さっきまでの作業内容や明日の予定などで会話を繋げつつ食事を続けた。


…そしてその声は、唐突に降ってきた。


「コレ、君たちにあげるよ。食べて」


弾かれたように二人が見上げた先、テーブルの横にいつの間にか立っていた人の姿があった。


「………え?」

あまりの気配のなさに、シンは呆けた。
わけが分からず無意識に見やったレイもまた、驚きに目を瞬いていた。
いつの間に自分らのパーソナルスペースを通り越し、進入してきたのだろう。

「あれ?…どうしたの?」

固まる二人に、その人物は首を傾げた。

茶色い髪に、菫色の瞳をした優しげな面差し。
白の隊長服を着ていたから益々首を傾げたくなった。…こんな人、いたっけ?
しかも、不似合いな金文字入りの箱を抱えて。

……ケーキ?

この雰囲気に場違いなアイテムに向けて視線を落とすと、気付いて箱がズイと差し出された。

「あげるよ。こういうのを食べると幸せな気持ちになるんだろ?」
「……そもそもアンタ誰だよ」

不信感全開で、シンは睨み上げた。
その視線に怯むことなく、そいつはいきなり呟いた。


「…えー…と…、………天使?」


ガタン、という音に目を向けたら、レイが無言で食事の乗せてあったトレーを持ち立ち上がっていた。

「待てよレイ。俺も行く」
「あー!ちょっと待って待って!」

まぁまぁと肩を叩き、とりあえずもう一度座ろうか?と、その不信人物はにこりと笑った。

レイはその人物の顔…ではなく、着ている服を一瞥し、無表情のまま再び腰を下ろした。
彼もまた、その白服が気になるらしい。怪しいことこの上ないが、それを来ている以上は上官の可能性もある。冷たくあしらえない。
シンもまた元の位置に座り直した。

「うん、ありがと。…はい、これもどうぞ」
「いらない」
「なんで?」
「いらないもんはいらない」
「子供ってのは普通みんな、こういう甘いものが好きなんじゃないの?」
「ワケわかんない奴からモノ貰えるかっての。つか俺は子供じゃない」

君ら充分子供でしょー、という言葉に、シンは反論した。

「アンタだって大して歳変わんないだろうが」
「…そう見える?」

意味深に瞬きをする相手に、シンは益々眉を寄せた。なんなんだ、コイツ。

キレそうになるシンに先手を打ったのか、それともさっさと話を進めたいのか、よく分からない冷静さでレイが口を開いた。

「貴方は、どこの所属ですか?」
「所属?」
「その隊長服を着ているということは、MS隊のいずれかだとは思いますが」
「あーこれ?似たような服で合わせてみたらこうなったんだけど。なんか意味あったの?」

白って僕の好きな色なんだよね―。
にっこにこで能天気に笑う姿は、ちょっと気さくな先輩ぐらいにしか見えない。

「まさか…知らずに着てたんですか」
「…?…さぁ?…よく分からない」
「………」
「ああ、この服そのものに役目があるんだ。ここの集団の中の、独自のルールなんだね」

…会話が、噛み合わない。

シンとレイは視線を見交わし、面倒くさい、と互いに思ったことを狂いなく察した。



 

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