30//ほかになにも





「アスラン」

最近では耳慣れた冷静で低い声が掛かり、アスランは振り返った。
するとそこには、レイとシンの2人が。

「何だ」

すると大いに不本意そうな顔をしたシンが一歩、前に出てくる。
敵意は感じられないのだが、どうにも不機嫌そうだ。
いきなりの呼び止めでそんな顔をされていると、自然、こっちも顔が歪んでくる。

「あんたさ、あの人の…」
「あの人?…誰だそれは」
「だから…」
「はっきり言え。用が無いなら俺はもう行く」
「だから…!」
「ヤマト隊長のことですよ」

煮え切らないシンに変わり、レイが後を引き継いだ。

「キラ?」

キラは今、機体整備でお呼びが掛かっている。
そろそろ終わりの時間だから、迎えに行こうかと思っていたところだ。

「それがどうかしたのか」
「ヤマト隊長が喜ぶものが何か、アスランは知っていますか」
「は?」
「付き合いの長い貴方なら、知っているかと」
「いや、まぁ…それなりにはな」

性格も趣味も、互いに阿吽の呼吸となっているところがある。長所も短所も補い合っている。
それは一つの自慢であり、誇りとも呼べるくらいに。

「何だ。キラを喜ばせようとでもしてるのか?…別に…誕生日でも特別な日でもないよな」

一つ頷いて確認する。
根拠が見当たらない。

「そういうことではないようです。…シン?」
「別に…目的なんて…。…ただちょっと、あの人の驚く顔が見たいなと…」

「それを目的というのだろう」とレイに窘められたシンは、図星を指された悔しさと気恥ずかしさで「煩い」と顔を背けた。

聞かされたアスランはというと、…まぁ、よく分からないようで分かるような複雑な気持ちで後輩を見る。
何がきっかけでそう思ったのか、知ってみたい所だ。
だが、素直に塩を送ることもないと、ちょっと捻くれた答えを返してやった。

「アイツに、分からないことがあるとでも言って、ちょっと難しいプログラムでも見せてみろ。嬉々として乗ってくるだろうよ」
「は?何だソレ」
「質問の方向性が違いませんか?」

どう解釈しようと、好きにすればいいさ、と踵を返す。
最後に優越の笑みを肩越しに贈るのを忘れない。

「本当だったら、俺がお前達に素直に答えを返す義理は無いんだからな。今回だけは、恥を偲んで俺に聞きに来たお前らへの、せめてもの褒め言葉だと思えばいい」






それから、半信半疑ながら従ってみようとするシンとレイの姿が。

シンが望んでいたものとは明らかに違う解答を得たワケだが、一応は試してみるかと。
その時の上から目線のアスランの態度にシンが憤慨したのは言うまでもないが、たかが2年とはいえ人生の長さは長く生きたものに一日の長があるものだ。
レイにも諭され、一応、実行に移してみた。

すると、アスランの言った通り、キラはその名に相応しい目の輝きで助けを教授してくれた。

夢中になるというか……そういうレベルを遥かに超えた、狂ったように楽しげな笑いでキーをだかだかと叩くキラの姿を見ることになったという。
さしものレイも唖然とするぐらい。(そこはさすがというか、無表情を保った)


…まだまだ遠く及ばない…。


2人が得た感想の最たるものがソレ。
結局、まだまだ彼らがキラ(達)に追い付く事は程遠かった。







「お前って、それさえあれば他には何もいらないってぐらい楽しそうだよな…」
「んー?アスラン何か言ったー?」
「それを単純な趣味の謳歌と呼んでいいのか…。…いや…、単純な操作じゃないワケだが…」
「アースラ〜ン?」
「…(ぶつぶつ)…」
「アスラン。何考えてるのかは知らないけど、それ以上悩むとハゲるよ」





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