「あれ、シン?」
「…っ、……キラ…さん…」

カジュアルな雑貨や洒落た日用品が揃う大型のファミリーショップ。
休みの日ともなれば家族連れや時間潰しの若者達で賑わうだろうその場所で、キラは知り合いに偶然会った。

棚の前でじっと何かを凝視しているようだったから、思わず声をかけてしまった。一瞬びくっと肩を揺らしたことに首を傾げつつ、

「偶然だね。シンも買い物?」
「あ…、はい…」

どうにも視線が泳いでいるような。何がそんなに気になるのかと、シンの目の前の棚に目を移した。

「写真立て…?」

棚の上には横一面、シンプルなものから、凝った細工のものまで、沢山の色がひしめき合っていた。

「何か飾りたい写真でもあるんだ」
「…こ、この前撮った写真ができたって友達に言われて…」
「あ、もしかして僕達みんなでお疲れ様パーティーやった時の?」
「…っ、はい」

女子組が率先してカメラを切っていたのを思い出し、キラは笑った。
呼ばれてレンズに向かいポーズを撮ったこともあったけど、結構好き勝手にぱしゃぱしゃシャッターを切られていた気がする。

「へぇ…シンって結構マメなんだね。僕なんか写真撮っても、パソコンの中に入れて終わっちゃうことが多くて。現像してわざわざ飾ったりファイルしとくとか、あまりしないなぁ」
「…いい写真があったから…。せっかくだしって思っただけなんで」

俯く姿は照れているようにも見えたが、とても微笑ましく感じて、キラも気持ちがほっこりした。

「僕もちゃんと飾ってみようかな」

並んでいる商品の一つを手に取る。レトロな木枠が温かみのある、一枚サイズの写真立て。
友達とか、家族とか。たまには眼に見える場所に飾っておくのもいいのかもしれない。

「どれにするか、もう決めたの?」
「えと…、まだ迷ってて…」
「どれ?」
「…これとこれです」

一つは、シンプルな白の枠に、金色の蔓草模様がささやかに付いたもの。もう一つは、淡いラベンダー色のものだった。

「こっちの白い方が、僕は好きだな」

ただ自分の好みを呟いただけだったのに、予想外にシンは反応した。赤色の眼がきらりと光る。

「ホントですか?」
「…?…うん。ただの僕の好みだけど」
「じゃあコレにします」
「え。いや、ちゃんと自分で選んで決めた方がいいよ?」
「いいんです。どっちにしようかずっと決められなかったし」

さっきまでのそわそわした落ち着かない態度が一変、すっきりとした表情になってシンは白い写真立てを手に取った。

そこに飾られた写真の姿を思い浮かべているのか、ほくほくしたような笑みを浮かべている。
それが存外子供のようで、キラはくすと笑う。

シンは、はっとして顔を上げ、照れた表情を隠すように早口で言葉を呟いた。

「あの、ありがとうございましたっ。ま、また明日!」
「うん。またね」

大事なもののように胸に抱えて、シンは去っていった。



「僕も買ってこうかな…」

幸せそうな後輩に感化され、キラは一人呟く。

記憶というものはやがて薄れ、良いものばかりではないものも多いけど。
写真というのは、不思議と幸福なものがほとんどのような気がするから。それが、自分以外の誰かと写っているなら尚のこと。

キラは、小さな四つ葉のクローバーが片隅に光る写真立てを手に取った。







逸る気持ちは自宅に帰れば落ち着くと思ってたのに、購入したばかりの写真立てと引き出しにしまってあった封筒を並べた途端、一層鼓動が早くなった。

いやこれはむしろ逸る気持ちとかではなく、緊張による動悸・息切れの域だ。

自分の部屋なのだから自分以外誰もいるはずがないのに、きょろきょろと周りを確認し、シンは封筒から写真を取り出した。

友人達との写真の間に紛れ込ませるように入っていた、一枚の写真。

先日の親睦会を兼ねた打ち上げで撮られたそれには、自分と…。


ゆっくりと目的の一枚を抜き取り、買ったばかりの写真立てに、それを納めた。

一人は恥ずかしさと緊張と戸惑いのあまり、赤くなって何とも間の抜けた顔を晒している。

けれどその隣には。


困ったような…けれど見守るような温かな笑顔をした、大好きな先輩の姿が写っていた。


これは、カメラのフレームに収まるよう周りに無理矢理押されて撮られた一枚だった。
その場に集まった面々の、場酔いしたテンションの高さに負けるような形ではあったけど。

「ルナにもお礼言っとかないと…」

にやにや笑いで「写真ができたわよ」と言って渡してきた幼馴染み。
その時は恥ずかしさのあまり引ったくるように奪い、逃げ出してしまった。


「…ずっとこのままだといいのになぁ」

この写真のように。
隣にいてくれればいいのにと願う。

少し寂しくなって……それから、目の前にある幸福感にシンは笑って、手にしていた写真立てを家族の写真の隣に、そっと並べた。





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