29//減らないもの





仕事のミスがどうだの、サボりがどうだのという話題になった時だった。

ほぼ全部の標的が自分であることに突っ掛かるシンと、子供もよね〜とからかうルナマリア。
興味なしと静観するレイに、笑って2人を見守るキラ。
4人で午後の一時を過ごしていた。


「始めは皆、そこからだったよ。経験を積めば、いずれは変わってくし」

息が詰まるぐらい生真面目になった人もいたし、もう出来る範囲だけでって余裕が生まれた人もいた。
僕の同僚達は生まれも育ちもお高い身分の人が多かったから、ぶつかり合いも多かったなぁ…ホント、大変だった。
笑いながらしみじみと呟いたキラ。

「でもまぁ、結果として今は皆、無くてはならない立場になったけど」
「ほーら。やっぱり適材適所じゃん」
「調子に乗らないの!アンタの行動が褒められたワケじゃないでしょ」
「俺のやってることは、普通の一般心理ってことだろ」
「いばるな」
「まぁ、その辺で。最初は皆そんなものだよ」

にこやかに場を和ませて、キラは続けた。

「それに皆、異例の若さだから」

周囲にいる人間が付き合い易い同年代だから忘れがちだが、彼らは注目を浴びて然りの歳若さと実力の持ち主なのだ。
プラントでは10代からの軍人は珍しくも無い。
けれども彼らはまさに偉才。
それでも、堅苦しい大人の討論やら思考よりも、興味・好奇心・楽しさと云った人生の謳歌を優先したっておかしくは無い。

語るキラだって……まだ幼い。

とはいえ、普段の落ち着きと穏やかさに加え、言動も態度も大人そのものだから、付いて来る人間は後を絶たない。
顕示欲の強い『大人』なんかの、比ではない。
そして、そんなキラに認められること程、嬉しいことはない。

どんなに幼馴染みに諭されようと、キラのフォローの一言があれば、シンの機嫌が下がることは到底有り得なかった。
ほぅら、この人は俺の味方をしてくれる!と子供思考驀進中だ。

味方とか言う辺りで子供特有の幼さ大爆発なんだが、そこはそれ、大人なレイは突っ込まなかった。
キラも、少しだけ眦を下げて笑うだけだった。


だが、ストッパーのない『子供』は突き進む。
ふふん、と得意気に、「分かってくれる人がいれば、俺はそれでいいし」と胸を張る。

「アスランほど長くは無いけど、俺だってキラさんとはそれなりに付き合いが長いし。レイやルナなんかよりも、ずーっとな!」

得意満面で胸を逸らすシンに、突然爆弾が投下された。
渦中、その人に。


「何言ってるの。僕とシンの付き合いの長さよりも、レイやルナマリアとの付き合いの方が長いよ」


固まった。

へ?


「シン・アスカと初めて面識を得るその前にもう、レイ・ザ・バレルとルナマリア・ホークには出会っていたよ」

そうだろう?と目で確認を求められた2人は、躊躇も無く頷いた。

「そうです。シンよりもずーっと前に、ね!」
「うそ…」
「何で嘘なんか付かなきゃなんないのよ。ヤマト隊長だってそう言ってるじゃない」
「そうだね。出会いからを付き合いの長さとするなら」
「ほら見なさい」
「ルナが…?…レイも!?」
「ああ。軍に正式な配属が決まった時に、初めてお会いしました」

目線がキラに移り、「うん」と本人も頷く。

それから今に至るまでには、互いに顔を合わせない期間が長かったのだが。
直属の上司でさえ無ければ、幅も階級も仕事も広い軍人の付き合いなど、ほとんど無い。

「指導の意味も込めて、新期生の前に立ったことが何度かあるんだ。正式な人が別件で来れなくなってしまったから、僕が臨時でね。仕事の名目だったけど、2人との出会いはその時だったよ」

笑顔を見せるキラの正面、さーっと青くなる顔が一つ。
そういえば、そんなミーティングもあったような…。

口だけの偉そうな担当教官の話なんて、聞く意味ナシと(勝手に)自己判断したシンは、それを何かの(嘘の)言い訳で蹴った記憶がある。
理論よりも技術だと誰よりも意気込んでいたシンには、言葉の指導などテキストを開く程度にも等しかったのだ。…だんだんと、思い出してきた。

まさか。そんなことで。
だが…!

「俺は何度もあんたの顔見たことあったし、擦れ違ったこともありますよ!?」

それこそ、話題に上らせた時期は、2人よりも遥かに早く。
若く優秀だという、キラ・ヤマトその人の噂を、まず最初に聞いたのは自分だ。
遠目で見たことなど、何度もある。(故意にも偶然にも)

ちゃんと会ってるじゃないですか!と言い募るシンの慌てぶりに首を傾げつつ、キラは口を開いた。

「けど僕は、シンのことは渡された資料の中でしか知らなかったよ。正式な辞令が来るまでは」
「俺の顔とか名前、知ってたんでしょ!?俺だってあんたの顔も名前も知ってたし!だったら…!」


シン、と静かにキラは瞳を覗き込んだ。


「相手の眼を見て、名前を知って、笑顔で話す。それが僕の出会いの定義」

会うことと出会うことはまた別モノだよ、と彼は語った。







やがてキラは、呼ばれて部屋を出て行った。

ずーんと影を背負うシンの真正面から、ルナマリアの優越に満ちた顔と声が降り掛かる。

「ざ〜んねん。こういう時、普段の真面目さが功を奏すのね。…ねぇ?レイ」
「そうだな」

ダブルの追い討ちに、シンの撃沈ゲージは変わらず溜まる。
それを見て、ふふんと笑うのが『付き合いの長い』幼馴染みだ。

「言い返せるの?」
「ぐ…っ」

何か……何か反論できる材料はないかと必死に探す。
そうしてバッと顔を上げ、

「でも俺の方が!距離は短いんだからな!」
「はぁ?」
「普段一緒にいる長さとか親密度とか、俺の方が勝ってる!」
「言い方がガキっぽいわよ、シン…」

言ってて恥ずかしくない?と溜息を付かれ。
それでもここまで来たらとシンは開き直った。

「付き合いの長さは人との繋がりに関係無いってのが、あの人の持論だし!」
「関係無くったって、それこそ親密さなんてこれからも埋めていけるじゃない」
「実力なんて、ルナはあの人に全然及ばないだろ。仕事を手伝えるだけ俺の方が有利!」
「あーら、女性の方が優しく紳士的に扱って貰えるのよ。実力では及ばなくったって、生まれた時から有利なのは私よ、私」
「普段差別するなとか言っておいて、こういう時持ち出すか…」
「今回ばかりは、使えるものは使うべきだと悟ったのよ」
「卑怯だろ!」
「どうぞ何とでも〜」

何処までを優位と取っているのは知らないが。
少なくとも、出会いからの長さも日常の共有時間が最も長く親しいのも、自分らの上司達だろう。

そして、誰よりも深く広い視野と想いを、あの人と無言で分かち合える、この国の歌姫だろう。

縮まらないという意味でのハンデの距離は、遅く生まれた分、自分達皆、スタートラインは同じだ。

…そう、一人冷静に息を付くレイだった。







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