地球の天候は、本当に読めない。気温は不快なほど高いのに、空は曇天のまま雨を降らせ続けている。

たまに降る雨も地球らしいと、誰かが言っていた気がするが。蒸すような空気と、時間が経つにつれ酷くなる雨模様に、うんざりする気持ちの方が強かった。



玄関にぽつりと、見慣れた姿。
降り出した雨に空を仰いでいる。
手元に傘はなく、どうしようかと立ち往生しているようだ。

「あれ、シン。今帰り?」
「あ…はい…」
「お疲れさま」

シンは、自分の持っている傘を見た。
どうしよう。一本しかない。

傘を貸すことも、一緒に入って行きませんかと告げることにも、抵抗がある。
そこまで親しくないから、それのどちらも戸惑いがあった。

それに、キラの視線もまた雨空ばかりに向かっているから、別にシンに何とかしてもらおうという気持ちは、この人には微塵もないんだろう。つきりと胸が痛んだ。

…分かってる。
この人は他人を頼ったりしない。
気安い笑顔は、彼の親友か歌姫くらいの前でしか見たことがない。

傘を握り締め、燻ったような気持ちになっている間に、キラは決断したようだった。

「また明日ね。じゃあ」

降れそぼる雨の中、駆け出そうとする。

「あ…!」

ぱしゃり、と水を弾いた音と共に、シンはキラの腕を掴んでいた。
驚いたその人の眼差しと、シンの赤い目が交わる。

「…?…シン?」
「たまには…、頼ってくれてもいいんじゃないですか…?」

こんな、ちっぽけなことだとしても。
ただの雨。ただの傘一つ。

霧雨の雨音の中で、互いに言葉はない。

それがますます居たたまれない気がして、シンは強く握り締めていた傘を、キラへと押し付けた。

そして、相手の返答を待たずに駆け出した。


貴方は頼らない。
貴方は何でも出来るから。

晴れの日には親しい友人達と青空の下で笑い、雨の日には頼るよりも自分が濡れることを選ぶ人。シンには入る余地もない。

白い雲は掴めない。
灰色の空の中ですら、寄り添えない。


「くそ…っ」


悔し紛れの呟きは、踏み付けた水溜まりの飛沫に消えた。

水滴がまとわり付いて気持ち悪い。
生温い外気も、止むことのない雨も。


晴れ間すら望めない空の下を、シンは走り続けた。



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