::: 晩夏残声 :::






「あれ?…これって鳥の声?」


一日の終わり、空が茜色に染まる頃。聞き慣れない声を耳に拾いあげ、キラは首を傾げた。

カナカナカナ…と日暮れの光に反響する『声』は、何だか不思議な郷愁をもたらす響きだった。

つい最近までは、耳に煩い蝉の声ばかりが辺りを埋め尽くしていたのに。
いつの間にか、涼しげで寂しそうな声だけが、響くようになっていた。

「アスラン、知ってる?」
「いや…。プラントでは聞いたことがないな」

あとで調べてみようとキラは心に決めて、二人は地球での最後の任務を果たすべく持ち場に向かった。





あれは、ヒグラシという名前の蝉なのだと調べて分かった。

夏の終わりに鳴く夕暮れの虫。
まるで、暮れていく夕空を惜しむ鳥のよう。
地球の夏の象徴のような、あの蝉の仲間だとは思えないほど、その鳴き声はか細かった。

「なんだかさ…夏の終わりって少し寂しいよね」

あんなにも賑やかな五感に溢れた季節だからこそ、終わりを迎える時の静けさが胸を打つ。

「遊びすぎて、地球が名残惜しいんじゃないのか」
「ちゃんとお仕事してました」

宿舎の窓からぼんやり外を見ていたキラは、アスランからの突っ込みに不満そうな顔をする。ちゃんと地球での任務は果たしました、と反論もプラスして。

「なら最後まできっちり片付けていけよ。明日にはプラントに戻るんだからな」
「はーい」

生返事。だらりと窓枠に寄り掛かる様に、アスランは息を付く。

キラの視線は、最後まで夏の景色を焼き付けるように外から離れない。

遠目に見える地平線。
昼間の陽光を弾いていたコバルトブルーの海は今、沈んでいく太陽の名残を引き摺り橙色に染まっていた。

「楽しかったな…」

蝉時雨は夏の始まりを伝え、太陽が茜に染まる頃に寂しく鳴く日暮が、夏の終わりを告げる。

記憶の風景が鮮やかなほど消えていく陽射しが名残惜しい。何度も後ろを振り返ってしまう。

「キラ」
「はいはい。ちゃんと準備するって」
「海にでも出るか?」
「え」
「地球の夏と言えば海なんだろ?だったら最後にそれを見て、気持ちを切り替えろ」
「………アスラン」

なんだ、と振り返り掛けた親友に、「さすが!大好き!」と、キラは大型犬さながらに飛び付いた。





夏の終わりを告げる鳥。
それは、秋の訪れを告げる鳥。

蝉時雨は消え去り、夜の鈴虫たちが羽を震わせ騒ぎ出す。
燕は子を成し飛び立って、小麦色の穂の合間に雀やムクドリ達がちょこんと顔を出し始める。


太陽が金色から茜色へ。

夜の空が美しい季節へと。


はしゃいだ思い出を畳んで、キラ達もまた地球を後にする。



空には、弓成りの月が瞬き始めていた。





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