25//伸ばされたゆびさき





ぱしゃん、と水音が跳ねた。


「何してるんですか、あんた」
「水に触ってみた?」


人口の川縁から水面を覗き込んだまま、こちらを振り返りもしないで答えた。

ぱしゃん、とまた飛沫が跳ねた。

「こっちに跳んでくるんですけど。冷たい」
「ああ、ごめん」

それでもこの人の傍を離れない自分も、どうかしてるか。

話し掛けることにも飽きて、同じく水面を覗き込む。
青い空を映した清浄な…濁りのない蒼の流れの中、赤い自分の眼が鮮烈に見えた。
横には、混ざったような紫の色。


今度は飛沫をあげず水をすくい取っていた。
繰り返すことに純粋な喜びを感じる子供みたいに。

「何してるんですか。…楽しいですか」
「…いや…」

穏やかに笑うだけ。
その紫は、手のひらに生まれた小さな湖に吸い込まれている。



「すくう…か」



やがて独り言を呟いて、今度こそしっかりと手首までを水に浸した。
ぱしゃんと、一瞬だけ水が弾けた。

そうして何かを掴むように、水中で手のひらを握りしめ…引き上げる。

何か捕まえたのかとじっと見詰めていたら、…だが開かれた手のひらには何もなかった。


「…何がしたいんですか。あんたは」


いい加減付き合いきれないと思い始めた頃に、笑う気配。
灰色の瞳は、腕から流れ落ちる滴を追い。


「すくい……、掴み上げたかったんだ」

「何か川にいたんですか」

「…違うよ」



………何なんだ、全く。


けれど、その姿からも眼からも、逸らすことも離れることも、出来なかった。




「僕は、すくっていたから」


「…だから、」



何を、







「本当は、すくっているその心臓を掴み出したかったんだ」







TITLE46






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