23//ぬばたま





じぃ…。

うずうず。


「何か用かな。キラ・ヤマト君」
「え」
「先程から、熱い視線を送られている気がするんだが」
「いえそんなことありません!……あ、僕はこれで!シン、レイ、あとは頼んだよ!」


脱兎の如くキラは走り去っていった。


「何なんだ…あの人…」
「何かあったんですか」
「いや。…彼に視線を送られることに、悪い気はしないがね」





うずうず。


「駄目だ。僕もう、議長の後ろ歩けないかも」
「どうした、急に」
「だってさー、アスラン。議長って今までにいなかった人なんだよ」
「そりゃあな。父以上の狸だな」
「うん。それは認める」
「しかもあの笑い方、かつての上司を彷彿とさせて身構えずにはいられない」
「うん。胡散臭さ大爆発だよね」


「…そういえば、俺達は何の話をしてたんだった?」
「ん?…あ、そうだった。議長の後ろはもう歩けないってこと」
「どうしてだ?」
「あの人の後ろ姿見てると、ウズウズしてくるんだよ。こう…手が勝手に動きそうになるっていうか」
「意味が分からん。首でも絞めたくなるのか」
「あ、否定はしない」
「なら、実行に移せばいいだろう。俺達の身内では、誰もお前のこと責めないぞ」
「ははー。ラクスなんて、お祝いしましょうかって言い出しそうだもんなー」
「カガリもな」
「ホントホント」
「………」
「………」
「………」
「…何の話してたっけ?」
「議長の背後はキラにとって危険だということ」
「ん?」
「あ?キラの目の前では議長は危険だということだったか?」





そんなこんなで、数日後。




「政務も軍務も雑務も手伝いますから、一つだけ頼みたいことがあるんです」


目がこの上なく期待に満ちている。輝いている。そんな表情をした人間を、どうして押し退けられようか。

加えて、予想外のことを『面白い』と笑って受け入れる傾向のある最高議長である。
キラの言動・行動が楽しくて仕方ないとその表情全てで語っている彼なら、尚更。

「何かな」と涼しげに笑った。





「一度だけ、その髪をいじらせて下さい」










レイはティーカップをガチャンと取り落とした。
シンは思い切り紅茶を吹き出す羽目になった。

その話を聞いて。

語った当人のアスランは2人の反応に全く我関せず、片手に紅茶、片手に雑誌の優雅な姿勢を貫いていた。ずずっと一口紅茶をすする。


今日は議長の姿を見掛けていない、とかその辺りの話題になり、「今日はキラと一緒にいる」とアスランが答えたのがきっかけ。
「議長はきっと、一日キラのオモチャにされてるだろ」なんて言われれば、何が起こってるんだと突っ込まずにはいられないだろう。

そうして、驚きを通り越して声無き唖然。


「何やってんだよあの人は!」
「代価は払ってる。普通の人間じゃ出来ない仕事量をその分、前日にやっていた筈だ」

アスランは姿勢を崩す気を微塵も見せず、ちらりと視線だけを寄越す。

「そういえば、一日中格納庫に篭ってましたね…昨日…」
「だからって、よりによって議長かよ!」


「キラ曰く、だが」


カチャンとカップをソーサーに置き。


金髪銀髪赤に紺。
遺伝子操作で好き勝手にいじるのは結構だけど、純粋な黒髪って案外いないんだよ。
それに何より!僕の周りって、短い髪ばっかり。…男だったら当然かもしれないけど。
黒くて長い髪なんて、もういじって下さいって言ってるようなものじゃないか。
いやーまさか一番の上官でそういう対象がいるなんて、まったく盲点だったね。幸運幸運。


「んな……そんなこと、親しい人間同士でやって下さいよ!」
「ああ。ラクス相手にも、今も昔もよくやっている」

交換条件として、ラクスもよくキラで遊んでいるがな。

「………」
「………」
「手先の器用さでは誰にも負けないことは周囲も知るところだろうが、それに見合って、何か、指先を細かく動かす作業が大好きな奴だということは、あまり知られていない」
「………」
「………」


色んな意味でスケールが違う。
こめかみを押さえるレイに。
理解不能だと頭を抱えるシンに。

親友であるアスランは、

「キラに常識は通用しない。この程度で引いているのか、お前らは」


もう慣れた、という平穏さで茶をすすった。



ちなみに、黒髪がお気に入りと聞いてハッと顔を上げたシンではあるが、短髪には興味ナシと聞いて肩を落とす場面もあったり。
加えて、「髪の色よりも長さに拘っているみたいだから、イザークにメイリン、それにレイ、お前も標的対象に入ってると思うぞ」というアスランの言葉に、ギロとシンがレイを睨んだのは言うまでもない。
そして益々頭が重くなっていくレイだった。





一方…。





「あー…、やっぱり髪質キレイだなー…。思った通り」
「楽しそうだね。私も、こんな頼みごとをされるのは初めてだよ」
「女の人ならまだしも、男は嫌がりますからね、普通」

喋りながらも器用にさくさくと動く指先。

「真っ直ぐストレートなのはイザークなんですけど、まだ短いから。邪魔だって言って、あれ以上伸ばす気はないみたいだし…」

勿体無いしつまらない…。
ぶつぶつと口を尖らせる。

「ラクス嬢の髪も、君が造ってあげてるのかな」
「ええ、そうですね。希望を聞いて、よく触らせて貰ってます」
「それだけでは満足出来なかったと?」
「嫌なら嫌ってはっきり言って下さいよ。残念ですが諦めます。…黒髪長髪って、ホント珍しいし…」
「私の容姿は他に比べて目立たないと思っていたが、君がそういうのなら自分に満足というものだ」
「じゃあ、好きにしてもいいんですね」

途端、お許しを得た子犬のように輝いた。





「一日、君を独り占めできるのなら」

「上手い殺し文句ですねー」



ははははは。










TITLE46






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