「キラいるかー?…って、何してんの?」

キラの自室に顔を出せば、テーブルに広げられた沢山の白い布が視界に入った。

くしゃくしゃに丸められたものと、四角くカットされたもの。何本もの紐。…ゴミか?

「あれ、どうかした?何か用?」
「特別な用は無いんだけどさ、暇だから遊びに来たっつーか…」

未だ手作業を止めないキラに、何やってんだ?と首を傾げる。

「てるてる坊主作り。僕も暇だったから」
「ふーん」

ものが何かは知っている。その意味も。

「確かに雨ばっかりだしなぁ」

昼間だというのに薄暗い室内の窓の向こうは、未だ雨が降り続いている。

「雨って、長く続くとたまに厄介だよね」
「まーな」
「作業にも支障が出て来ててさ」
「そうなのか?」
「不具合って言うの?メンテナンスの回数が増えて他が進まない」
「あー…なるほど」
「まぁ、家にこもってばかりになるから、気分が滅入るってのもあるけどね」
「そうだな…」

ポタポタと滴が伝って落ちてくる灰色の空。
長雨ももう一週間が過ぎた。
パッとしない天気に、気持ちまで曇ってくる。

「それで、コレ?」
「うん。沢山作って!なんて言われて、家はてるてる坊主だらけだよ」

困り顔の中にも確かな優しさを感じて、ディアッカは思わずキラの頭を撫でてやりたい気持ちになった。…やらないけど。怒るから。

代わりに、自分も手伝うことにした。

「俺もやっていい?」
「あ、いいの?…ありがと」

丸めて包んで結んで、おまけに顔を描く。

悪戯心で、時々マヌケな表情も描いてみたりして。呆れた突っ込みをしつつ、楽しそうにキラも笑う。

「今度のその顔、何?…なんか誰かに似てる」
「お、分かる?ブチ切れた時のアイツの顔〜…なんつって」

どっかでくしゃみをする姿が届いた。
「風邪か?」なんて奴は言ってるに違いない。

「はは。………こういう楽しみ方出来るなら、雨も悪くないよね」

そういう考え方も確かに出来る。
雨の日にだって、良いところはあるものだ。

そして、ディアッカにとって、何気にこの長雨は好都合だったりする。

そう。たまにはこの雨が役に立つこともある。
…実のところ、まだもう少し降ってて欲しい気持ちがあり、ちらっと窓の向こうを見た。

「………」

…せめて明日までは降っててくんねーかな…。

雨を早く終わらせる為のアイテムを作りつつ、そんなこともふと思う。
その望みの先の不謹慎さには目をつぶって、ディアッカはてるてる坊主作りを手伝っていた。

「これぶら下げてホントに雨が止んだら凄いモンだよな」
「おまじないみたいなものだしね」

ぷらんと摘まんだそれを下から見やって、ふぅんと呟く。

「こんなに作ってたら効力抜群、明日には止んじゃう感じ?」

ディアッカの言葉に、キラが何かを察して顔を上げた。

「なに?晴れて欲しくないの?」
「いやいやそんなことありませんヨ?」
「………」
「これって唄もあるんだよな?…確か…」
「………」
「あーした天気にな〜」
「って欲しくないんでしょホントは」
「………バレた?」

じとっ…と、この湿気空にも負けない目付きで横槍を入れてきた。

「明日の屋外演習がめんどくさいんですって顔に書いてある」

ははー、と図星に頭をかいた。

真面目君な我が隊の隊長は、思い通りに演習が進まないことに苛々しているご様子でしたが。

自分としては面倒極まりないからバックレたいことこの上ない。
雨が降ろうが晴れようが、気持ちは既に逃げる気満々なのだが。

それをまたしても見抜いたように、キラが釘を指して来た。

「逃げるなよ、ディアッカ」
「逃げないよー。頑張りますよー俺は」
「………」
「んな恐い顔しないしない」

笑って終わらそうとしたディアッカだったが、なお一層細くなったキラの目付きに、一瞬冷たい汗を感じる。

「………、……もしサボったら…」
「…さ、サボったら…?」
「ディアッカをてるてる坊主にしてあげる」


…シャレにならん。


「ごめんなさい。すみません」
「まぁ、冗談は置いとくとして、…あ、サボったらの件は冗談じゃないからね」
「ですよね」
「早く雨はあがって欲しいかも」

キラは窓の外を見て、ベッドサイドの机に置いてあるパソコンを見た。

「見てる分には雨は嫌いじゃないんだけど、何かをしようとする時には不便なんだよね」

本来なら必要ない筈の事後処理が増えるのが鬱陶しいのだ、と溜め息を付くキラ。

こんな子供のお遊びに付き合いながらも、しっかり軍人なのだ。
そこに妙なギャップ差を感じて、ディアッカは何とも言えない顔になる。

「……やらなくてもいい時ぐらい、考えなくていーんじゃねぇの?」
「ん?」

キラは首を傾げた。

「ま、さっきみたいに、てるてる坊主の顔描いて笑ってる方が、キラにはあってるだろ」

ぽんぽんと柔らかい髪を叩いたら、キラは一瞬きょとんとした後、ハッと我に帰ってムッとした。忙しない奴だなぁ。

「…子供じゃないんだけど」
「はいはい。子供は明日の軍事演習のことなんか心配しませんもんね〜」
「むかつく。明日おぼえてろ」
「晴れれば、ね」
「絶対晴れさせてやる!」


今日の夜には、てるてる坊主がみっしりと窓際に並ぶに違いない。

もしかしたら、自分やその他友人達の部屋にまで浸食してくるかもしれないと予想。


さて、明日の空模様はどうなるだろうか?



それは、雨の日にだけ主役になれる人形次第。





優しい笑顔のてるてる坊主が、雨の降る窓から二人を見詰めて揺れていた。












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