* primula veris *




「―――っていう、夢を見たんだ」


話を全て終えて横を見ると、アスランは随分と渋い顔をしていた。

「お前…よりによって何で今日、そんな縁起でもない夢を見るんだ…」
「縁起悪いかなぁ?」
「それは何だ。お前には全部を忘れたいっていう願望でもあるのか」
「違うよー。そんなわけないじゃない」
「だったら何で…」

そんなにもはっきりと記憶に残る夢を見ているんだ。アスランの苦い顔は変わらない。

キラは首を振った。

「……むしろ逆だと思う」

今二人はクライン邸の庭にいる。
揃ってベンチに座り、花も盛りな美しい庭を、並んで見ている。

新緑の木漏れ陽眩しい―――。


「絶対に忘れたくないから、夢に見たんだ」


鮮明に覚えている夢の中の風景を辿る。

大切なものを無くしていく感情は、今でも薄らと胸に残っている。それがどれだけ空虚で寂しく哀しいことであったか。

だから、目を覚まして自分を辿って、何も消えずに己の中に全部が残っていることに安堵し、感謝した朝。

「僕がどんな風でも、ラクスは傍にいてくれると思ったし…、…それに…」
「それに?」

キラは思い出して笑ってしまう。
おかしくて。変わらなくて。

当たり前過ぎて。


「僕を思い出させてくれる鍵をくれるのは…、やっぱりアスランなんだなって思った」


夢の中でも。現実でも。
幻実の世界であっても。
ホント、考えるまでも無かったみたい。

「今日の朝にこの夢を見たのって、何かのお告げかな?」
「お前らしく周りを振り回す、究極の悪夢だな…」
「アスランのその嫌そうな顔は、いつになっても変わんないね」

でも、本当は誰より優しくて…、何があっても見守ってくれる親友だと分かっている。

だから今日も楽しみにしていた。
今日という日を、待っていた。


「と、言うわけでさ」


―――プレゼント、ちょうだい。


「どんなわけだ…」
「とか言いつつ、ちゃんと用意してるアスランが大好きですよー」
「まったく…。……ほら」


差し出された桜色の花。

儚く散る空の花ではない、地に根付いた優しい色の花。…―――夢と何ら変わらない、その、


「やっぱり、綺麗な花だね」

可愛いって言えるかな。
濃い桜色と小さな白。
指でそっと花びらに触れて香りを確かめる。

夢の中と違うのは、今、ここには悲しそうな親友の姿はなく。
やれやれと溜め息を付きつつも、二人共に覚えている思い出を間に挟んで、花を眺めているということ。

それから、

「キラ」
「ん?なに?」

頭にぽすんと、手が置かれた。


「誕生日、おめでとう」


くしゃりと髪を回され。

小さい頃によくしてくれたように、頭へと親愛のキスをくれた。


「お前が生まれてきたこと、きっと皆も感謝してる」


最高の、蕩けるような優しい眼差しをして。

親友は、今日も―――今年の今日もまた、隣で静かに微笑むのだった。



「……やっぱり、アスランはキザだ…」

そう言うしか、言葉が無い。
…顔を隠せないのが辛いトコロだけど。


うん。
僕も、感謝してる。

沢山の花を見て、沢山の花に触れ、そうして沢山の花に囲まれて生きられる今をくれた皆に。


だから、その代表に。

その、筆頭に。


「ありがとう。アスラン」


僕は、今年も―――今日も、そう…言葉にするのだった。


その花は、春を開く鍵。

春の終わりに生まれた僕は、沢山の花の盛りに沢山の祝福を貰える、幸せものだね。



…―――約束の花を、幸せごと抱き締めた。



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