* SUNSHINE YELLOW *




「キラー、次の休みいつだー?」
「ん?…えー…と、多分あさって…かな…」

何もなければ、だけど。
予定外の予定が入るのは別に珍しくもないが、業務も別に嫌いじゃないから、特別な予定がなければあっさり休みを潰してしまうことも茶飯事だ。

「じゃあ、その日開けといて」
「ディアッカも休みなの?」
「おう」


……特別な予定、入ってしまいました。





クライン邸。
休みの予定を取り付けて外出にでも付き合わされるのかと思いきや、お前んちの庭貸してー、なんて言ってディアッカはやって来た。

「今日の目的はコレ。やるよ」
「プレゼント?」
「おう。プレゼント」
「わ。ありがとう」

片手に収まるちっちゃい小袋が、ぽつんと掌へと載せられた。

何だろう。とても軽い。
この小ささなら、メモリースティック?
ディアッカだから、適当に見繕ってきたお菓子とかかも。

折り畳まれている袋の口を開け、掌に出してみた。

「………種?」

首を傾げたキラに、そう♪とディアッカは笑った。



「おらー、お前ら散れ散れ〜」

俺も私も!となつく子供たちをぱらぱらと払いのけ、二人だけで種を植えようと道具一式を抱えて外に出る。

…しかしまぁ、子供の扱いが上手いというか何というか。性格が落ち着かない子供達にすぐに好かれるのは才能だ。ぼんやりと感心する。気難しい奴の扱いには慣れてるしーとか言ってたな。

「別に皆と一緒に植えても良かったんじゃないの?」

これだけいっぱいあって大変なんだし…、と呟けば、いいんだよ、と笑いながら返ってくる。

「これは俺とお前だけでやる事に意味あんの」
「…ふーん…」

ざくざくと夢中になって土を掘る姿を横目に、キラは息を付く。普段からこのくらい集中してくれればいいのに…。

「こら。手を休めるなって」
「はーい」

広い広い、庭園とも呼べる庭の一角で、二人は作業に没頭した。



「よし。終わったな」
「うー…腰が痛い…」

屈んだ格好から二人大きく伸びをして、暖かな空を見上げた。太陽の恵みは燦々と眩しく、掌で目元に傘をする。

「この晴れ具合ならすぐに芽が出るだろ」
「まだ植えたばっかりだよ?」
「甘い甘い」

ディアッカは笑う。


「ヒマワリの生命力舐めんなよ?」


ひまわり?
やっと何の種か…言葉通り種明かしをされて、それがどんな花かを思い浮かべる。

「それって背の高いあの黄色い花だよね?」
「そうそう」
「へー…この種からあの大きい花が咲くんだ」
「こんなちっちゃい種だったけど、花が咲けばそりゃあ豪華に見えるだろーぜ」

肩越しに振り返り、得意げな笑顔を満面に見せる。

…なるほど、ね。ディアッカの表情を見て妙に納得した。言われなくても、分かったよ。

僕は直にそのひまわりの花を見たことはない。
でも分かる。
きっとディアッカみたいな花なんだろうね?
その色の明るさも、鮮やかさも、骨太に真っ直ぐ伸びるその茎も。

口にはせずにくすりと笑えば、ディアッカは笑顔を固定したままハテナを飛ばした。それがまたおかしい。

「なんだよ」
「何でもないって」

久しぶりの土いじりは楽しかった。
小さい頃に家族で、季節毎の花を植えた思い出が蘇る。あれはもう、何年前のことだったか。

「…遅れて悪いけどな」

遠い風景を辿っていたら、そんな一言がぽつりと聞こえた。見れば、ディアッカは首を掻きつつ視線を落としている。

「なに?」
「……誕生日プレゼント」
「え…」

珍しく少し困ったような顔をして、んー…と歯切れ悪く唸る。

「ホントは当日にバーっと用意できてるのがカッコイイもんだろ。でもこの花が咲くのはまだもう少し先だし…、早く咲く、っても誕生日は余裕で過ぎるし…」
「………」
「………何だよ」
「………、…ディアッカらしくなくて何か驚いた」

その気遣いっぽい申し訳なさが、らしくない。
誕生日を覚えてたのにも驚きだが、何か渡そうと考えていたことにもびっくりだ。
ディアッカなら、「わりー、知らなかった。代わりにコレやる」とか言って昼御飯のデザートとか差し出して来そうなものだ。勝手な想像。

「自分でもらしくなくて何か笑える」
「そう?」
「でもホラ、キラには普段世話になってるし…迷惑も掛けてるし…」
「後の方が比重大きいよね」
「…う」
「こんなんで帳消しになるなんて思うなよ」
「ま、まぁ、お礼も込めたプレゼントだから」

嫌な方向に行きそうな気配を察して、ディアッカは目を逸らした。その様に、やっぱり笑いが滲み出てしまう。

「冗談だって。…ありがとう、ディアッカ。誕生日前と後で二つプレゼントを貰えた気分」

待つ楽しさも盛りを眺められる嬉しさも味わえる、ある意味ディアッカらしいプレゼントに感謝して微笑む。
たった一日だけではない、特別な限定期間。

「二人で植えたことに意味があるんでしょ?」
「ああ」
「なら、約束だよディアッカ。二人で植えたんだから、咲いた時には必ず二人で見るからね」

誕生日に、じゃなくたって、楽しかった思い出があるならそれは充分に幸せだ。その日が待ち遠しい。


大地の香りのする場所で。
草の香りが立つ風の中で。

きっとその花は、太陽の匂いがするんだろう。


「一面のひまわり畑って凄いんだってね。映像でしか見たことないよ」
「じゃあ今度、地球に降りて本物のヒマワリ畑を見に行くか」
「うん。約束ね」


新しい約束を、太陽の下で。



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