「見て、アスラン。今年の新入生だ」

窓枠に腕を乗せて外を見ていたキラが声を掛ければ、アスランもまた同じ景色を覗き込んだ。

「ああ、そんな時期か」
「こういう風景を見るとさ、春って感じがするよね」

暖かい春の木漏れ陽の街路樹の下。

そこを歩く彼らの表情は千差万別だ。
皆、違う個性を持つことを印象付けるように。
期待に建物を見据える者、緊張に深呼吸をして立ち止まる者、明るく尽きない興味を振り撒いている者…さまざまな顔がある。

「今年も沢山入ってきたなぁ」

ここで何かを見付け、それぞれが、望む場所へとやがて旅立って行く。

「ふふ。今年はいい新入生が生まれそうだね」
「…お前の勘か」
「うん。勘だね」
「キラの直感は、当たるからな…」

キラはにこりと笑う。

「そうだよ?」

僕達の出会いだって、直感があってこそみたいなものだしね。

「…そうなのか?」
「んー…正しくは、きっと仲良くなれるって、勘みたいなものが働いた?」

出会いは春。綺麗な桜がその日も咲いていた。
そして、これまでの…叶うなら一生の繋がりであることを望む二人の縁を結び付けたのは、ほんの少しの偶然と、正しかった自分の勘。

「あ、そうだ」

思い出した、とキラは机の引き出しを開ける。

「これ。懐かしいよね」

この前見付けて、持ってきちゃった。
その写真に写る風景は、本当に随分と懐かしい。

幼年学校の入学式。
お花見中の家族写真。
士官学校の入学式に、二人が首席で卒業した時のものまである。

共通しているのは背景を飾る美しい薄紅の花。
だから、桜は思い出の花。
出会いと、始まりの花。

「この頃のお前は、まだ素直だったな」
「それどういう意味?」
「まだ素直に泣いたり、馬鹿みたいに笑ってた気がする」
「馬鹿とか言うか…」
「まぁだからって、お前が今特別に変わったってわけじゃないが」
「成長してないと言いたいのカナ?」
「周りが言うほど、万能人間じゃないってことだ」
「…そりゃ…」

完璧じゃないことは、言われるまでもない。
誰よりも長く、傍で互いの人生を共有してきたから、アスランの言葉は誰よりもキラの中で真実だ。

「僕達が親友なのも、これからも変わらないまま、ずっとかな」

それは、淡い期待をこめた呟きだった。
今までがそうであったように。
この指先に映る風景のように、これからもその絆だけは、変わらずに。

「俺は、一生お前に付き合わされて行くと思うぞ」
「………一生?」
「ああ。一生」
「それがアスランの勘なの?」
「勘だ」

直感も直感。
そしてそれは、違わない未来なのだと。
アスランは穏やかに笑った。

それならば、二人の勘は、運命みたいに合っていたということだ。…目の前の写真に写る、幼い自分達の出会いの時の、直感は。

それがとても嬉しいことで…、…何だか気恥ずかしい気もして、キラはアスランに背を向け、途中だった業務に戻り再開する。

「………じゃあ、言葉通り付き合って貰うよ?仕事溜まってるから…」
「ああ。仕方が無いから、な」

楽しそうな笑顔を隠すこともなく、アスランも自分の席に戻る。

何となくその態度が腑に落ちない気もするが、言ったところでまた笑われるだけだ。
昔はもうちょっと優しかったのに…なんて振り返り…、……でも、変わらないことも沢山あるか…と、対岸を見る。

なんだ?とこっちを見返す顔は、最近よく美形だと騒がれる大人の顔になった。小さな頃は、もっと表情が動いていたような気もするけど。…結局は、お互い様なわけか…。

何でもない、と小さく返し、キラは燦々とした窓の外を見詰めた。





やがて、業務時間開始と共に、彼らは部屋から出ていった。


ひら、と散り欠けた花びらが、誰もいなくなった部屋に入り込む。

風に乗せられて舞うそれは、そのまま机へと運ばれて、広げられたままの写真達に辿りつく。
温かな陽射しの下に残された、少年達の始まりの風景に寄り添った。



今まで、何度この季節を迎え、そして去っていったのか。

出会い、の始まりが春ならば、思い出を辿り懐かしく振り返る季節もまた、春なのだろう。



祝福の春が、笑う。

愛しい花が、咲う。



僕達のこれからと共に新しい季節が始まった。












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