19//てのひらの温度
双子。
クローン。
遺伝子が同一と呼ばれる二つの命。
「ねぇ、レイ」
「はい」
「君も、思ったことはある?」
「何がですか。何をですか」
「もし一つで生まれていたならどうだろう。
//生まれなけば自分はどうなっていたのか。
//自分の方こそ意味などなかったのか。
//……『同じ』である以上、一度は考える」
「………」
「同じ人間。なのにどうして別の人間として
//生まれてしまったのかって」
螺旋に組み込まれたのは、遺伝子だけでなく、他者の意図と大いなる未来像。
希望だったのか欲望だったのか。
『命』というものを作り出したのが彼らならば、最早彼らの意図と意思無くして自分らの存在は在り得なかった。
緑の芝生が広い、風の渡る場所。
空も雲も近いこの、自然を感じる世界の中で二人は、揃って腰を下ろしていた。
全幅の親しみであるほど近いわけではないけれど、少し手を伸ばせば触れ合えるくらいの指先と指先の隙間。
他人だけれど、他人には成りきれない距離。
大地の感触と温度を感じるように、両脇の緑の上に、二人は掌を投げ出していた。
「…いや、ごめんね。
//こんな話、どうでも良かった」
「どうでもいい…ですか」
「そう。今更どうにもならないこと…、
//…考えれば考えるほど暗い気持ちになる
//だけのことなら、意味なんかない」
「………」
「それに、僕が言いたかったのはそういう
//ことではないから」
「何ですか?」
キラは笑った。
振り返らずに。
横顔だけで目を細めて。
「一つになんかならなくて良かった。
//……なりたくないよ。だってそうなって
//しまったら誰を抱き締める事もできない」
ひとりの孤独は寂しいけれど、ふたりの孤独は気付けば辛くないね。
傍に、いれば。
誰かが、いれば。
触れ合うほどに隣り合う指先。
温度を感じるほどに近く。
その隙間に横たわるのは蒼い空。
温度をくれる、たった一人の、同じひと。