16//立ち尽くすその場所に
銃口を向けた先にいる人は、いつだって穏やかに表情を貼り付けたまま。
本音や動揺と云った感情から生まれる心など、全て綺麗過ぎる言葉に覆い隠され。
こうして、銃口の動き一つ、指の動き一つで自分自身が消えてしまうなど…微塵も感じていないように笑う人。
けれども結局、彼が世界に広めた波及は、彼がいなくなっても残り続けるのだ。
真実、彼自信がこの世から消えることはないだろう。…為政者として歴史に残り続ける。
……本当のことなど、何一つないまま。
『望むことは世界の幸せだ』と、この世で最も尊く、美しく、……そして偽りだらけの理想、唯一つを残して。
「貴方が未来に望む本当は何ですか。
//世界平和ですか。人の幸福ですか」
こたえ、など…。
返ってこないと分かっているのに。
「パトリック・ザラと同じ私怨ですか。
//それともラウ・ル・クルーゼの後を継ぎ
//世界を壊すことですか」
「戦争の無い、幸せな世界を」
「……だから僕は、貴方が嫌いなのです」
「一体何度、その言葉を言われただろうな。
//悲しいことだ」
「きっと、一生、変わらない」
「憎んでいるとは言わないのか」
「僕は、貴方が嫌いです」
残念だ。
もう一度そう言って、少しもそう思ってない静けさで笑って。
命を奪うものが自分に向けられていることなど綺麗に無視して、一歩、こちらに踏み出した。
それに目を見張る一瞬すらも奪われて、気付いたときにはもうその腕の中だった。
「君にはこんなもの、似合わない」
落とされた鈍く重く光る凶器。
取られた利き腕は手首ごと捕まれたまま、その身は黒い議長服に包まれていた。
「こんなことをするのもさせるのも、
//貴方だけです」
貴方だから、です。
……いい加減その意味を、解って下さい。
「私は、無表情でも無感情でもないよ。
//君の前ではちゃんと、心を返している」
確かに、全てが静かではないんだろう。
胸にある心臓は音を刻み、音を鳴らし、心は凪いでいないことを示している。
……こころ、が。
この心臓に在るというのならば。
冷たいと思っていたその指先にも、ちゃんと体温があった。
肩越しに見える議長席。
暗く寂しいたった一人の為の玉座。
「貴方がその椅子に座ることがなくなった
//その時に、そこには何があるのですか」
答えは、ない。
応えはただ、いつもと変わらない……機械のように正確な笑顔だけだった。