「アスラン。僕は今凄く眠い」
お前な…、とアスランは呆れた顔をした。
何故なら自分は今業務中で、機体メンテナンス用の工具を持ったままの体勢だからだ。格好は汚れた作業着、顔は埃まみれ。作業の真っ只中。何故今その宣言を俺に言う。
手を止めないまま、とりあえず構ってやった。
「眠いなら先に帰ればいいだろう。俺はまだ作業が残っている」
「んー…」
うつらうつらと眼を閉じ掛けながら、それでも座り込んだ場所から立とうとはしない。
キラの業務はもう既に全て終わっている。
アスランもそうなのだが、やりたいことがあったので私的残業中。まだ帰る気はない。
額の汗を拭いながら、工具を一先ず片付ける。
簡単に手から埃を払い、機体に寄りかかって船を漕ぐキラへとかがみ込んで、その肩を揺すった。
「ほら、キラ」
「いやだ」
「邪魔になるだろうが」
「やだ」
半覚醒のくせに、拒否する言葉だけはイヤにはっきりしている。
やけに頑なな態度にムッとして、もう少し強く揺さぶろうとしたら、
「アスランと一緒にいたいからまだ帰らない」
ばこっ
「いたっ」
奇妙な音に、キラの悲鳴があがった。
「いたいよ…!…なに…?」
「あ…いや、……悪い」
反射的に叩いてしまった。勢いは無いにしろ、無防備なところを叩かれたショックは相当だろう。キラはぱちぱちと仕切りに瞬きをしながら、恨めしそうにこちらを見上げてきた。
…いや、お前が変なことを言うから…。
「…?…なに…?……アスラン顔あかい…」
「!」
「いたっ」
なにすんの!と額を押さえて怒り出したキラの前で、アスランは視線を逸らしてしまった。
確かに、ここのところ仕事続きで休みが重ならなかった。遊びに出掛けるどころか、一緒の時間も取れないでいた。
だからって、あんな台詞を無意識に言うか…?
長く長く、溜め息を付いた。
…本当に俺は、こいつに弱いな。
立ち上がって、外していた機体のカバーを元に戻す。工具を全て箱にしまい込み、持ち上げた。
「明日は久しぶりの休みだ。一緒にいられる。だから帰るぞ」
ただそれだけをふいっと無愛想に呟けば。
へへ…とはにかむ親友の姿が飛び込んできて、アスランはまたしても相手の顔を見ることが出来なくなってしまった。