「起きてディアッカ!!」
ドス、と殺傷力抜群の一撃が腹に加えられた。
「あれ? ディアッカ? 起きてる?」
腹の上から全体重を掛けて覗き込まれ、ディアッカは本気で息が出来なくなった。絞り出すような呻き声だけが布団の下から這い出ていく。「んー…?」と不思議がる声と共にますます重みが増した。
「ディアッカー? あれ?」
「〜〜…〜〜」
「ディ、」
「永眠するわ!」
「わ」
勢いよく跳ね起きた拍子に、ころんとキラがベッドに転がった。
その時、何かもぞりと布団から出てきたものが。
わふっ
「………」
尻尾を振った茶色い物体が舌を出してつぶらな瞳をこちらに向けている…。
「……………、………なに?コレ」
「犬」
「分かる」
「じゃあなんで聞いたの」
「いや、俺が言いたいのはそうじゃなくて…」
わふわふ言いながら、歩きにくい布団の上をよたよた歩き出した茶色いわんこ。
「外で拾ったんだけどね…」
ベッドから落ちかけた子犬をスッと持ち上げ、キラは困り顔で首を傾げた。
「このコどうしよう?」
………いや。……俺に聞くな。
その為に俺はあの突撃を受けたのか。お花畑を見せられたのか。飼えないものは拾ってきちゃいけません!という教えは受けて来なかったのか。おい親友ちゃんと教育しとけ。…などなどの言葉が渦を巻いたが。
そうだ。何でそもそも俺のところに来たんだ。
お前には頼れる親友がいるじゃないか。
「まずはアスランのとこ行けよ…」
するとキラは、くわっと目を見開いた。
「行ったよ!アスランのとこも!イザークのところにも!!」
「あ、そうなの。…で?」
「二人にこの子を見せたら、心底嫌そうな顔された」
あの蔑んだ目なんなの!?
友人に向ける目じゃないよね全く!
ぷりぷり怒っているキラだが、十中八九、二人はその子犬ではなくそれと一緒にいるキラに巻き込まれるのが嫌だったのだろう。…ワカル。
人の部屋のロックを勝手に外しては人の腹にダイブしてくる人間と関わりたくはない。
「こんなに可愛いのに、君を無視するなんて二人はホント、薄情モノだよねー?」
頭を撫で撫でされて、子犬は心底気持ち良さそうだ。
「で、ディアッカ」
「……おう」
「頼りになるのはディアッカしかいないと思ったんだ」
「………」
大人しく、けれども嬉しそうに尻尾を振っている子犬を顔の前に持ってきて、小さな前足をふにふに動かしている。小首を傾げる一人と一匹。
どうしよう? というよりは、このコと一緒に僕を構え? というオーラが出ている。
「………」
ちらっと外を見ればイイ天気。
思い切り外に繰り出したい一日だ。
この子犬が本当に拾ったものなか、何処かから見付けてきたものなのかは知らないが、キラ自身が子犬のように駆け回りたいのだろうなと予想する。
「ディアッカ?」
「………」
がしがしと頭をかく。いつもなら大いにノる話だが、今の自分は凄く眠い。暖かくてとても眠い。
「どうしたの?」
「…そいつの面倒をみりゃいいんだろ?」
「うん」
「じゃあ、寝ろ」
ぽすっとベッドに寝かし付けた。子犬ごと。
「わぁ、これが『川の字』ってヤツ?」
「………、…まぁそうだな」
騒動を起こすぐらいなら、寝かせておこう。
キラの腕の中、ディアッカとの間に挟まれた子犬は、背中を撫でられ頭を撫でられご満悦であくびをしている。ぴすぴすと鼻を鳴らしては、そのまま眠ってしまった。
「ちょっとダラけてるかなぁ。でもこんな一日もたまにはいいよね」
「アスランやイザークじゃ味わえない休みの過ごし方だろ?」
窓からは優しい木洩れ陽。
ふさふさの茶色い毛並みと茶色の髪の毛を撫でたら、幸せそうな二つの笑みが見えた。
それに笑ってディアッカも目を閉じた。
……潰される重さに魘されて、夢の中にまで嵐の元凶が出てくることになるとは思いもしなかったけど。