13//砂の城





波の打ち寄せる浜辺の砂に文字を書き、それが日暮れまで消えることなく残っていれば、その願いが叶うと云う。
遠い昔、海の景色に焦がれた人が伝えた優しい嘘。
それでも何かに縋りたいと想った時、人はそうして消え行く色に願ってた。

海辺の砂の文字など、空の雲よりも儚く消えていくのに。


ならば代わる、砂の城ならどうだろう。



海に削られ、風に浚われ、時に奪われて。

いつかは必ず消えていくものと、誰もが皆、知っているけれど。

少しはその終わりを、先伸ばしに出来るのだろうか。


一人迎えを待ち続けて待ち続けて……取り残された子供。
けれども待ち人は来ないと知っている。

もう幼くてはいられないから。


子供の遊びの延長みたいに、子供では作れない砂の城を築き、ただ黄昏を全身に浴びた。





遠い残影が消えていく。
浜辺に打ち寄せる音と共に。

身体の一部を波に洗われながら、彼はひとり、世界の境を見る。
ただ明日が来ることすらも奇跡のこの身に、一日の終わりを告げる日暮れは眩しくて切なかった。


ぼんやりと立ち尽くすその一刻の間にも、砂の城は失われゆく。
このまま波に洗われ続ければ、いつか人魚姫のように溶けて消えていくのだろうか。

水の冷たさと、眩しかった光の残り灯が心地いい。
それだけが、今の僕の全て。

漂うものは何もなく。


少年は総てを終えようとしていた。



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