一色だった緑が、少しずつ美しい色を纏ってその彩色を魅せ始める。
蓄えていた生命の息吹が、自らを飾る為にその力を落とす季節が訪れた。

これからは、目に見える変化によって、生命が衰えていく様が分かるだろう。

くるくると、源を離れた茜に銀朱、赤朽葉。
全てが色付くものもあれば、まだ半端なままその身を大きな枯色の肢体から離すものもいる。

少しずつ、少しずつ。生命が朽ちて、眠りの前の穏やかな時間を刻んでいた。





「キラ、髪に葉っぱが付いてるよ」
「え?…あ、ホントだ」

友の言葉に髪をまさぐれば、カサ…と音がして地面にハラリと薄茶けた葉が落ちていった。

「木に登ろうか?キラ。そうすれば、この林いっぱいの紅葉を見ることが出来る」
「うん。きっと綺麗なんだろうね」

幾度となく登った木を身軽な動作で上がっていく。

支本の一本のような太い枝の上まで来ると、二人は並んでそこに腰を下ろした。

足を投げ出して枝に手を置いて。
ざらりとした感触のそれは、春や夏とは少し違って肌が擦れる位に掠れていた。
濃い茶色をしていた幹も、表が剥がれては呆気なくボロボロと崩れていく。



春には薄紅色の衣装を存分に纏っていた木の葉は、既に亜麻色の栄枯の色となり、時が一秒と立つごとその葉を散らす。

その太い枝の上で、少年たちは二人、遠くを眺めた。
空にもその葉の色を溶かし込んだ風景が広がっていた。時はもうすぐ、逢魔ヶ刻を向かえる。

空の暮れと紅葉の林。
二つが交わる場所には、境界線がぼかされた燃えるような紅。



「何だか…、…怖いぐらいだ…」

キラは、そう言って目を細めて果てを見詰めた。



「まるで、空が燃えてるみたいで…」



宇宙に続く上の空は今、少年の瞳と同じ菫色。
地平線に触れる太陽は橙色。
その二つに囲まれた黄昏は、どこまでも深く、怖いほどの朱を引いた茜色。

強烈な色彩の光は、あまりに強過ぎて、目を離すことも許されないほどの鮮明さを残す。

自分たちを取り囲む木々の葉も。夕日に照らされて、揺るやかな小波に色を乗せる水面も。
自分たちに影を残すことを許さぬように降り注がれる黄昏の暮れも。

その全てが、まるで恐怖を感じさせるように、紅かった…。



「何かさ、真っ赤過ぎて…凄く不気味に感じるよ」

また身体へと落ちてきた葉をそっと手で取って、キラは呟いた。

夕焼けだけならば、美しいと思える柔らかさなのに、周囲の朱色に染まった紅葉が尚のこと恐怖を誘う紅色を思わせる。

紅葉は音もなく、際限など無いよう水面に落ちては波紋を描く。

それらは緋色が凝り固まったように、少年二人の座る巨木の周囲を囲んでいた。






それは、差し迫ってくる何かの予感だったのだろうか。

風景も夕焼けも、全てが色彩に染まったその刻に、アスランはまた別の怖さを感じた。

傍らの、ただ遠くを見詰めるだけの親友。

秋の枯れた亜麻色の髪が風に揺れて。
ゆっくりと帳を下ろす薄紫の空の瞳。
瞬きすらせぬまま前を見詰める親友の横顔に、何故か身震いを感じてしまった自分がいる。



「…?…どうしたの?」

「…何でもない…よ」

ゆっくりと、首を振った。

…こんなのは、ただの心配に過ぎないのだと。





もうすぐ、全ての色が宵闇に染まる。
その少し前の鮮烈な色の風景は、もうすぐ終わる。

キラは呟く。


「秋は、何処か寂しい色だね…」


景色の遠くで炎が燃え盛っているみたいに。
それによって多くの血が流れているみたいに。





秋の緋色は哀しい色。



天を焦がす焔にも、人の流す血にも見えるその赤色に、心をうたれて。







別れの時を予感させる、不思議な秋の色…。








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