辺りの木々がその魅力を終え、自信の中に力を溜めるように青々とした葉が実りだす。
湖の水も、透き通った透明な涼しさを見せて、穏やかに波紋を形作っていた。


生命が最も強く輝き出す季節がやって来た。





「何だか今日、いつもよりもあったかいね」
「あったかいていうより、暑いの領域に入るんじゃないか?キラ」
「そう?でも地球では、夏って言えばこんな感じらしいじゃない」

もしかしたらもっと暑いのかも、とどこか辟易しているアスランとは対照的に、この温度の空気と風を楽しんでいるキラ。彼としては、そんなに不快に感じるほどでもないらしい。

木の下の微かな木陰から頭上を見上げれば、煌きに霧散した光の粒子が二人の顔に散った。

「そんなに暑い?…アスラン」
「少し気に触る温度だね…」

寒いのよりも暑い方に苛立ちを感じるアスランは、そう言って何度目かの溜息を付いた。

暑さのせいで、さっきからこの調子の親友に、キラはどうにか出来ないかと視線を巡らせた。

「あ、じゃあさ、水の中に入って遊ぼうよ」
「え」

折角湖の水があるのだし、涼みながら遊ぼうかと提案すれば、アスランはぎくりとしたように低い声を出した。

「何?どうしたの?…あ、もしかして服が濡れるのを気にしてる?」
「いや…そうじゃなくて…。…水に足を入れる程度ならいいんだけど…」
「…ふぅん?」

遠慮がちにそう言って手を振るアスランの顔を、じぃっと見詰めるキラ。

「………」
「う」

じいいいぃぃぃっと。
目を逸らされても、ひたすらに横顔を凝視。

先程までの、暑さとはまた違った汗が流れるのを感じるアスラン。

「あー!!」
「な、何!?」

叫び声にはっとして、アスランは分かり易い程に身体を震わせる。

一方キラは、そんな親友を見て、どことなく楽しそうににやり笑いを浮かべた。


「アスラン、カナヅチなんでしょ」
「べ、別にっ。何を言い出すんだ、キラっ」
「声、うろたえまくってるよアスラン」

ぶんぶんと勢いよく手を振るが、やはり図星だったのか狼狽しまくりである。

「へぇ〜、ふぅん…。何事にも優等生のアスランがね〜…」
「キラ!」

初めて相手の欠点を見つけたとばかりに、キラは喜んだ。

「別にそうじゃない!月には海なんてないし、泳ぐ機会がないから自信ないってだけで…」
「じゃ、丁度いいね」
「え」
「僕が泳ぎを教えてあげよう!」
「え…っ、ちょ…っ…」

得意満面で、キラはアスランの腕ごと身体を引っ張っていった。
ずるずると引き摺っていく様は、いつもの彼とは思えない力強さだ。

キラ・ヤマト……普段からは考えられないほどに、結構強引な少年でもあったりする。

そして引っ張られるアスランもまた、いつもの彼とは思えないほど情けなかった。


「ゴー!アスラン!」

ドンッ

バシャーン!!


前不利もなく、いきなりの水面へのダイブ。

ちなみに、ある程度の水深はあるので怪我をする、なんて心配はない。

キラもそのまま、湖へと飛び込んだ。

「ぷはっ!…あーでも、このぐらいの深さだったら練習するほどでもないね。……アスラン?」

浮上したキラがそう呟いてみたが、アスランからの返答はない。
怪訝そうに隣を振り返った。


「わあぁ!?アスラン!?」


………彼は沈んでいた……。


「大丈夫!?」

潜って水面に引き摺り上げれば、一、二度水を吐き出すように、アスランはむせ返った。

「ゲホッ、キラ…ッ、僕を殺す…ッ…か…?」
「ごめん!まさか本当に浮き上がってこれないぐらいカナヅチだったなんて…」
「今まで…っ、数えるほどしか水の中…に、入った事がな…い、…んだよ…!」
「と、とにかく落ち着いて…!」

ままならない呼吸を何とか落ち着かせて、やっとキラにも安堵が戻ってきた。



「………、……キラってたまに、周りが信じられないほどの無茶をするよね…」
「そうかな?」
「自覚がないだけだよ。…そして更には、信じられないほど強引になる時がある…」
「機嫌直してよ〜…。アスラ〜ン…」

むくれる、という子供らしい、けどアスランには滅多にない態度を返されて、キラは汗々と必死に取り繕った。

それから暫く後。

キラがどうにかこうにか説得し、言葉をかけることで、漸くアスランは機嫌を戻したのだった。

…そして再び、キラの満面の笑顔つきの提案が行使される。

「でもこれから、どんな状況に巻き込まれるか分からないし、もしかしたら海とか湖とかで溺れることがあるかもしれないだろ?だから一応、練習しとこう!」
「いや…、だからキラ…、そういう強引なところを…っ」
「だーいじょーぶ!アスランなら運動神経がいいからすぐだよ!それに僕達はコーディネイターだよ?のーぷろぶれむ!」
「問題大有りだって!僕個人の意思はどうなるんだ…っ!?」
「だから、アスランを尊重したからこそ、これからに備えて、ね?」
「その無邪気な笑みに悪魔の尻尾が見えるぞ!キラ!」
「しっつれいだな〜。僕はいつもこんな笑顔だよ?」
「うわ…っ、引っ張るなって!キラ…っ」
「れっつごー!!」
「キラー!」



少年たちの声が木霊する緑の楽園だった。








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