やっと桜の全盛を向かえた今、少年達は静かに木の根元に腰を下ろし、頭上を見上げていた。

「綺麗だなぁ…」
「うん。ここの桜は他の所よりも早咲きで、散るのもゆっくりだね」

桜はその散り際が美しいのだと、誰もが言う。

天へと続く腕のように、その枝へと折れんばかりに付いた蕾。
それが花開く日を人は求め、眺める。
おおよその花は、散ってしまえばもう魅力は半減する。

けれど、それを少しずつ少しずつ零れ落としていく様に、人は魅せられ惹き付けられる。
散る時にまで美しいと思わせるのだから、なんと素晴らしい花であることか。


「いつかは散って行くものだから美しいって言うよ」
「それって何かカッコいいね、アスラン」

自分よりも博識のある親友を横にして、キラは笑う。

「人で言うなら佳人薄命、ってことかな?」
「キラも難しい言葉使うじゃないか。意味、分かってる?」
「んー…、つまり、綺麗な人ほど寿命が短いってことでしょ?」

コーディネイターという、普通の人よりもその知識の許容量も大きい二人。…それでもまだ子供の二人。

だから別に、難しい言葉や言い回しなんかを使わずに、今はただ、この桜を『綺麗』だと思える心があれば充分。
そう思って、二人はただ静かに天を見上げた。


「確かに、キラの例え通りかも。桜の花も佳人薄命って奴だね」
「でもここの桜はゆっくりと散っていってる感じ…」

まるで桜が、自分の身体から花弁を離すのを惜しんでいるみたいだと。

ゆっくりと、穏やかに長く見られるなんて、嬉しいことこの上ないけれど。
どこか惜しんでいる様が垣間見えて、寂しさも感じる。



ゆっくりとその終わりに近付く、この大きな桜木ではあるけれど。

いつかは全て散り終わってしまうもの。



でも。



「また来年も咲くもんね」

「うん。きっとね」



キラは頭上を見上げたまま、立ち上がった。



「ね、アスラン」

「なに?」



栗色の髪の少年の後ろには、一本の揺るぎ無い桜の木。





キラは、眩しい程の笑みと共に両手を広げた。





「また来年も、必ず二人でここに来ようね!」





可憐で儚い桜雪が、風の息吹を受けたよう、一斉に花を散らした。











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