PiPiPiPiPi

PiPiPiPiPi


「…はい」

『キラ!遊びに行こうぜ!』


ブツッ


PiPiPiPiPi

PiPiPiPiPi


「………はい」

『何切ってんだよ!』


キラは心底面倒くさい目で通信の画面を見た。
しかしその細めた視線にも彼は動じない。
快活な笑顔を浮かべて話を続けて来る。

『ちょっと面白いものが見れるからさー』
「ディアッカ…、僕まだ仕事が残ってる…」
『急ぎじゃないんだろ?』

そういう問題じゃない。
頭も身体も疲れていて、余計な思考は入れたくない。多分、落ちる。

『何?もしかして作業内容遅れてんの?』
「ディアッカじゃないんだから。溜まってた仕事がやっと終わりそうなんだ」
『予定日よりも余裕があるなら、もうちょい楽に仕事進めれば?まだ休み明けなんだからさー』
「君は年中楽観的だろ」

こっちはシビアに突っ込んでるのだが、相手は『はははははー』と全く動じない。

『この季節って、何かわくわくする景色じゃん?色々光っててさ』
「冬をめでたく感じるのはディアッカぐらいだよ…」
『時期的にめでたく感じるだろ』
「もうそういう時間は終わりました」

いい加減手を止めさせないで欲しい。態度が冷たいと自覚しているが、疲労が溜まるとそれすら歯止めが効かない。…早く全部を済ませて寝たい。

『地球のちょっと寒い地域なんだけど、沢山遊ぶとこあるから』
「寒いの嫌なんで」


ブツッ


「……ふぅ…」


PiPiPiPiPi

PiPiPiPiPi


「………」


PiPiPiPiPi

PiPiPiPiPi


「……………」


PiPiPiPiPi

PiPiPiPiPi

PiPiPiPiPiPiPiPiPiPi....


「………、………はぁ」


キラはとうとう、諦めの溜め息を吐いた。







「やっぱり寒い…」

マフラーと着込んだ服の襟を寄せ、白い息を付く。寒い。もうとっくに頬も指先冷たくなっていた。

諦めを知らない友人に結局は根負けし、キラは半ば引きずられるようにしてここに来た。
自分を巻き込んだその相手は、先に様子を見てくると行って駆け出したっきりまだ戻って来ない。

地球に降りた時には既にもう夜で、視界は暗く今自分がいる場所もよく分からない。周りは雪原らしいのだが…何も見えやしない。

ただでさえ疲労で身体が眠りに向かっているのに、こんな寒さの中じゃ益々機能停止しそうだ。色んな意味で、キラの身体機能はストップしそうだった。


「キラー、こっちこっち」

やっと…か。
ディアッカが少し先の木造りのコテージのような場所の前で手を振っていた。
朝になったら遊びに行こうと、ここを滞在場所に選んだらしい。随分と用意のいいことだ。


中は明るく暖が取ってあった。
あらかじめ暖めてくれていたのだろう。
でもコレは…。
この気遣いは、今のキラにとって非常にヤバい。

「……―――…」
「じゃあ荷物置いてそれから」
「ディアッカ…あのさ」
「あ?」

ディアッカ…、ともう一度呟いて…、

「ごめん…、…僕…もうおちる……」
「あ!コラ寝るな…!」

むりー…と微かに呟いて、遠くなっていくディアッカの声を聞いた。





パチパチと何かが焼ける音。
とても暖かくて、とても懐かしい匂いがする。

これは…そう………木の香り。

薄く浮上した意識の先にフと映ったのは橙色の灯り。明るさも暖かさもそこから生まれているのが分かる。

ああ…ここはとてもあたたかい…。

とても……安心できる場所―――。





ぱち、とキラは目を覚ました。
見慣れない木目調の天井。

「……あれ?」

僕はどうしたんだっけ…?
寝起きで覚醒しきらない頭で時間を遡る。

傍らで動いた何かに目を向ければ、そこにいたのは「…ぐぅ…」と仰向けで寝転がったままのディアッカ。
きょろきょろと辺りを見回したら、カーテンの向こうはもう明るかった。夜が明けてしまっているらしい。

一度目が覚めたような気がしたが、あまり記憶にない。
疲れが出てしまって、そのまま朝まで…、

「眠っちゃったのか…」

髪の毛をかき上げて息を付いた。
身体は大分すっきりしている。久しぶりにゆっくり睡眠時間が取れたみたいで随分楽になった。

カーテンを開けようと立ち上がる。
室内は暖かいが、きっと外は寒いんだろう。


シャッと薄水色のカーテンを引いた。



…―――光。



真っ白の。

眼を射る程の白の世界。



…ああ、そうか。
地球では今、雪が降るんだ。

ただ、こんな景色は、


「初めて見たのか?」

「……ディアッカ…」


ふわぁと欠伸と伸びをしながら近付いてきて、キラの隣から同じく窓を覗いた。
冬の雪は全てを覆い隠して眠らせてしまうものだと思っていたけれど。…これは。

早朝のキンと張り詰めた大気の中で、きらきらとした欠片が光っている。
雲一つない快晴の冬の朝、氷点下まで落ちた青い空の下で空気は美しく凍り付く。水晶の破片のように。

吹雪いた景色しか見たことがなかったから、こんなに穏やかで輝いた風景は初めてだ。
自分が知る『冬』とはまるで違う。


「冬の魅力はやっぱ朝だな」
「そうなんだ」
「昔話の歌にあった」
「うた?」
「詩、みたいなヤツ」

へぇ、と頷く。さすが和の国オタク。
銀髪の仲間の一人も文化や歴史について詳しいけれど、彼の場合はまた別の新鮮さがあって面白い。直に見て知れ!と引っ張っていかれる。

「まー、キレイに晴れて良かったな」
「雪って曇った時にしか見られないと思ってた」
「寒けりゃ晴れてても雪は降るぜ?これで思いっきり遊びに行けるな!」
「…ふふ」

何かもう気が抜けた。
身体の疲れとか、根を詰めていたものとか、さっぱり無くなったからかもしれない。

「やっと笑ったか」
「ディアッカ見てると、なんか笑えてくる」
「おい」


真っ白の硝子窓の前。
朝陽がいつもよりも眩しく感じられるのは、冬のもう一つの美しさを知ったからだろうか。

目の前の金色の髪が、煌々と光っていた。
その眩しさにも、キラは嬉しそうに微笑った。


「うん、やっぱりディアッカには陽の光だね」
「あ?」
「太陽の方が夜よりも似合っててさ」
「………」
「僕はそっちのディアッカの方が好きだな」
「………おう」



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