「赤色は、不気味だけど綺麗だね」
カン…とテーブルの上のグラスを弾いてキラは言った。
「…?…ええと?」
「いや…。…ごめん、深く考えなくていいよ」
何処にハテナを持って行くべきかも分からず、言葉に詰まるシンに、キラはひらひらと手を振った。
「純粋な赤ほど、透き通っていて不気味で、綺麗な色は無いなってこと」
頬杖を付いているキラと、向かい合わせで座っているテーブル。
その目の前には、それを示すみたいな赤いベリーソーダが注がれたグラスがある。
その硝子越しに、シンはキラの顔を半分だけ見詰めた。
「流れたばかりの血の色を見たことはある?」
「…まぁ…」
職業柄、無いこともない。
「とても綺麗な色だと思わなかった?」
「…そんなこと、考えてる余裕なんか無いです…」
それもそうかと、キラは頷いた。
「手を切ってしまった時なんかにね、滲んできた血の赤がとても綺麗に見えた」
「………」
「でもすぐに錆びた銅色のような赤になってしまって、綺麗とは言えなくなった」
カランカランとグラスを揺らして色を撹拌する。
苺の赤。
アイスの白。
沈殿する乳白色のソーダ水。
赤の中にあってこそ色の無い透明な氷が、マーブル状に歪んで揺れる姿がくっきりと映った。
「それがどうかしたんですか?」
「…別に。何も」
回っていた氷がカランと鳴って止まる頃、その人は顔を上げた。
「時間が経つと、綺麗で鮮やかな赤も、純粋な赤色では無くなってしまうんだなって話」
硝子と雫に透ける赤の向こうから、紫の瞳が、もう一つの赤を捉えて静かに笑った。