「アスラン、手ぇ出して」
「…?…なんで?」
「いいから」

期待に満ちた目が、早く早くと急かしていた。
なんだろうと思いはしたが、アスランは素直に右手を差し出す。

キラはポケットからマジックペンを取り出し、きゅぽんと蓋を開けた。
そしてアスランの手のひらを握り、

「…!…ちょっ…、キラ!」
「へへ」

きゅきゅきゅ、と、キラは文字を書き始めた。
なになになにと戸惑うアスランは、そのペン先が滑るくすぐったさに腕を引こうとしたが、キラの力がそれを阻む。

「それ、しかも油性じゃないか!」
「もうちょっと…」
「キラ!」

なにするんだよ!ともがくアスランを無視し、キラは文字を書ききった。

アスランは自分の手のひらに視線を落とし、

「え…、『KIRAYAMATO』…?」

歪んだ文字を読み上げ、瞬いた。
キラは、満足げに息を付き、笑う。

「昨日、先生が持ち物に名前を書いとくように言ってたでしょ?」
「………。……それ、遠足に行く前の注意ごとじゃないか…」

よほど念入りに洗わなきゃ消えそうにないインク文字を見て、アスランは途方に暮れた。

最近のキラが、自分の名前を書くのがお気に入りなのは知っていた。何にでも名前を書くようになっていたのも知ってたけど…。

「なんで僕にまで書いちゃうんだよ…」

するとキラは、自分の名前が載ったアスランの手のひらに自身の手を重ねて握り、嬉しそうに笑った。

「母さんにその話をしたら、たいせつなものには、なくさないように名前を書いとかなきゃダメだって言われたんだ」

だから、アスランにも書いたの。
これで、アスランはぼくのだいじな友だちだってこと、わかるよね。

純粋で素直な、キラの笑顔が輝いていた。

「………、…うん。そっか…」

じゃあ、キラも手を出して。
差し出された右手と、持っていたペンを貰い、アスランはキラよりも早くスマートな動きでペン先を走らせて、文字を書いた。

くすぐったいと笑うキラに、「はい、終わり」と告げて手を離す。

「これが、アスランの名前?…へーこう書くんだ…」
「これでおそろいだね」
「『おそろい』?」
「仲良しのあかしだよ」

アスランが笑いかければ、キラの表情がぱぁっと輝いた。

「うん!これでずっとなかよしってことだよね!」

キラの、幸せそうな大陽みたいな笑顔に、アスランもまた心から頷いた。



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